ねこになってもいっしょにいたい
※初投稿の初作品です。
ーーーあの日、世界から私はいなくなった。
普通に毎日仕事して、終わったら小学生の子供の相手をしながら家事をこなして、食事と入浴を済ませたら子供を寝かしつけて、そしたらやっと自分の時間。
そんな毎日を繰り返していたのだけれど、それは突然のことだった。ベッドに横になろうとしていたとき、突然の胸の痛みに襲われ、布団にそのまま転がり込んで、声を出す間もなく意識を失い、ーーーどうもそのまま息を引き取ったようだった。
その日も夫の帰宅は遅く、発見は少なくとも3時間はたってからだっただろう。もしかしたら、普通に寝ていると思われて朝になってからだったかもしれない。
なんにせよ、何故か目の前で自分の葬式が行われており、私はそれを見て自分の死を理解したのだった。
死ねば何もかもなくなってしまうのかとずっと思っていたのだが、私は今猫だ。猫の姿で式場の片隅に隠れるようにじっとしている。
この場所には見覚えがある。祖母や祖父を見送った場所だ。
何故猫になっているとか、何故ここにいるとか、疑問は尽きないが、そんなことよりも私は自分だったものが見送られる光景をじっと目に焼き付けている。
たくさんの心残りがあった。たくさんの心配が胸を締め付ける。
まだ小学1年生の娘が棺桶に蓋をするのをイヤイヤと泣いている。
夫は呆然と、ただただ私の死に顔を見つめていた。
この後は火葬場へ移動だが、そこまでは車に乗っての移動になるため、ついていくのは難しく諦めて外に抜け出した。
初冬の風の冷たさに、ふるりと身体が震える。冷たい風の匂い、車の排気ガスの匂い、雑草の匂い、どれをとっても今が現実であることに文句のつけようもなかった。
これからどうすればいいのだろう。
途方に暮れたまま、しばらく青空を見上げた。
ーーー気がつくと、別の場所にいた。
自分の身体を見下ろすと、相変わらず猫のままだ。長い間ぼんやりとしていた心地がする。どうやって移動したかはわからないが、見回すとどうやら友人宅のすぐ近くだ。
葬式は家族だけで行ったらしく、あの場に友人たちの姿はなかった。あいつは猫アレルギーだったはずだが、せっかく近くにいるのだから顔を見に行くことにした。
ベランダに降り立つと、窓が少し開いているのが見えた。ラッキー。室内へ滑り込んで見ると、家主の友人1人ではなく、他の友人も集まって缶チューハイ片手に何やら話し込んでいる。
家主ともう2人。いずれも見知った顔ぶれだ。
それなりに散らかった部屋の隅に潜り込んで、他愛ない話を聞き流していると、唐突に私の話になった。
いつも一緒に楽しくお喋りに興じていた彼、彼女らのどんよりとした見慣れない姿に、ひどくいたたまれない気持ちになり、私は慌てて部屋から逃げ出した。
無我夢中で走った。いつの間に降り出した小雨が土砂降りになり、猫のになった私の身体を叩きつけるが、それでも走りつづけた。
いつの間にか、眠っていたようだ。
まだ雨が降って入るようで身体に温い飛沫が当たるのを感じるーーーと、
「み″ゃ!?」
ーーー突然顔にビシャッときたので飛び起きた。
お風呂場だ。それも見覚えのありすぎる。
見上げると、私の娘が、危なっかしい手つきで猫の私にシャワーを向けている。
無意識に家に帰ってきたのか。
「ねこちゃん、かぜひかないようにね」
泡立ちきれていないボディソープを片手にたどたどしく撫でつけられる。
やっぱり、もっと娘や夫と一緒にいたい。そんな気持ちが溢れた。
猫になっちゃったけど、これからも、子育て、できるよね!
「風呂場で何してっ て、え?ねこ?!」
娘にぬるぬると撫で回されながら決意したところで夫に救出された。
「ナーーー」
ちゃんとお母さんするので飼ってくださいよろしくお願いしますm(__)m
読んでくださってありがとうございます。