11月・母親至上主義!:6
「な、に言ってんの?そんな簡単に……」
「だって、やっぱ逢ってみたいだろ?直ぐに逢いに行かなくても居場所くらい調べよう。そんで、逢いたくなったら、逢いに行こう」
麻琴の不安気な声を吹き飛ばすように、公平は毅然とした態度で真っ直ぐに俺を見てきた。
「外国にいるって書いてあるし……」
「それでもさ、調べてみようぜ」
公平はそうした方が落ち着くと諭すように話し、俺の視線はゆっくりと手元に向かう。
確かに、本を手にしてから何かが気になって落ち着かないのは事実だ。
「……どうやって調べるのよ?」
「ネットにかけてみるか……有名なんだろ?直ぐに解るって」
公平に渋々賛同する素振りをして麻琴も話しを進め始める。
「城崎に聞けば早い」
逸る心臓を抑えるようにして、スマホを取り出す公平に俺は手にある本を見せ拓かした。
そこは母の本と同じ出版社名と能見波留生の近影写真、能見波留生が日本在住である事が記された略歴の載る最終頁。
童顔である能見波留生の姿はやはり赤茶色の髪を後ろに束ね、ゆるりとしたシャツを着て人懐こい笑顔を浮かべていた。
二人は顔を近付けて本を眺め、ページを読んだ。
「やっぱ[いい男]だな……」
「そこはほら、流石芽衣さん!よ。あ、ココ!『3年前に独立、事務所を立ち上げる』って書いてある」
「おお、マジか。すげぇな……留衣、三白眼と直接連絡とれんだろ?」
「ああ、名刺持ってるから」
「なんで持ってんのよ!……ムカつく」
「アイツ、言うほど悪いヤツじゃねぇぞ?」
「懐柔されてんの?!うわぁ……目を覚ましなさい。城崎は親しくもない女の子を名前で呼ぶのよ?ろくなヤツじゃないわよ絶対!」
「そうだ。芽衣さんを呼び捨てるんだぞ」
城崎への印象は相当悪いらしく、俺の擁護する言葉は軽く論破された。
この日は時間も夜8時近く、麻琴は母親が帰宅するからと慌てて帰り支度を始め、公平はいつも通り麻琴を送ると立ち上がり、話しの続きはまた明日となった。