11月・母親至上主義!:5
沈黙の中、気まずい雰囲気を終わらせるように麻琴は能見の初出版本に手を伸ばして表紙を捲った。
「ふーん……若いわね」
「当たり前だろ、これ8年くらい前の写真だろ?これが芽衣さんの……イケメンだな……チッ!」
「留衣に似てないわ」
「……そうだな。留衣は芽衣さん似だからな」
俺の見慣れてしまった能見の写真を覗いてボソボソと感想を述べる。
二人で顔を見合わせて何と声を掛ければいいのか思案しているのが伝わる。
「いいよ、気遣うな」
俺は少し可笑しくなって苦笑いをしながら買ったばかりの本を手に取った。
やはり綺麗に装丁された表紙を捲ると真っ青な青空に飛行機が尾を引いて空を分断し、子供と母親がそれを眺めている後ろ姿が写っていた。
ページを捲り続けて眺める俺に二人は黙って手元の写真集を捲り続ける。
「あ」と声を発したのは麻琴で、一緒に覗いていた公平も目を見開いた。
「これ」「芽衣さん?」
『lover´s』を見付けたらしい。
「うん、それ、いいだろ?俺も気に入ってんだ。ウチにはそんな写真ないし、俺写真嫌いだから、母との写真少ないし」
幸せそうに笑顔を浮かべて眠る赤ん坊の俺と若い母。
俺は『lover´s』を眺めて眠る習慣が着きつつあった。
照れ笑いをしてみせると公平が真剣な顔をして姿勢を正した。
「留衣、逢いに行こう」
その一言に心臓が波打った。
思わなかった訳じゃない。
ネットを使えば連絡先くらい知れるかもしれない。
直接逢えなくても実物を目にする事くらいは出来るかもしれない。
だけど、俺はまだ[知っている]と母に伝えられていない。
城崎は母に了承を得たから俺に本を渡してきたけど、それについて母と話してはいない。
母と[能見]について話していないのに勝手な行動をしていいのか、解らない。