11月・母親至上主義!:4
公平は店にあった母の本3冊を手に入れた。
自分用に1冊、美希さんに1冊、麻琴に1冊渡して別の店で後4冊買うと言っていた。
……保存用、観賞用と後は部屋に飾るのだと言う。
美希さんも2冊いるのだそうだ。
俺は買うつもりもなかったけど一応母の本を1冊……能見波留生の本を1冊買った。
公平に「買え!」と押しきられたのだ。
帰宅して夕食を済ませると母が部屋に籠ったのを確認して、待ち構えていたように麻琴も含め3人で俺の部屋に集まった。
部屋のローテーブルに城崎から貰った初出版本と並べて黙り混む。
「どういう事?いつからあの三白眼と仲良くしてんの?」
「何時知ったんだ?」
麻琴が公平から前もって聞き及んだのか、本を前にすると先に口を開いた。
落ち着いた声で二人から問い詰められる。
何と応えたものか……二人が城崎に良いイメージを持っていない事を知っているから、応えに惑う。
「「留衣?」」
責めているようで、そうでないような、心配しているのだろうと思う。
「……夏に」
「3ヶ月も黙ってたの?!」
「なんで言わないんだ?!逢いに行ったのか?!この人に!」
母に聞こえないように気を遣いながら二人の言葉が襲いかかった。
いつ母が出て来ても判るように、いつも通り部屋の扉は開けっ放しにしてある。
「行けるわけないでしょ?!何処にいるのか解らないのに!」
公平の問い掛けに、何故か俺より麻琴が答える。
「いや、だって、父親が解ったんだろ?逢いに行くだろ!」
「遠い所にいたら直ぐには無理でしょ?それに……逢ってくれない、かも知れないじゃない……」
麻琴の声がじわりと弱くなる。
二人は無言の俺の様子を伺うように静かになった。
二人の気遣いは解る。
産まれて16年間[父親]に逢った事は勿論、名前も素性も知らなかった事を二人とも知っている。
未だに母には伝えていないし、何故離婚したのかも知らない。
[能見波留生]は俺の知る限り[1度も]連絡をしてきた事はないはずだ。