10月・大切だから大事:15
何でアイツは『相手がいる』と宣言して遠避けた事を忘れるのだろう。
後夜祭に出なければまた追われるなんて、考えないのだろうか?
男嫌いのクセに。
項垂れて呆れていると麻琴は腕を掴まれて焦りだした。
「麻琴!」
大声をあげて駆け寄り、麻琴の腕を奪い返す。
「行くぞ!」
突然現れた俺に驚いて怯んだ男子を睨んで、そのまま校庭に走った。
「やっぱ、バカだろ」
息を整えながらボヤくと、麻琴はゼェゼェと肩で息をし、反論が出来ず睨み返してきた。
俺に引き摺られるように併せて走らせたのだ、運動が少し苦手な麻琴が声も出せずに呼吸を整えようとするのは当たり前か。
「だから“待ってろ”って言っただろ……全く強情だな」
「……う、るっさい!」
ここぞとばかりに強めな言葉を告げる。
初めて麻琴に[口]で勝った気がする。
ちょっと嬉しい。
「何で笑ってんのよ、キモい!」
赤い顔で尽かさずトゲを刺してくる。
観念した麻琴はブスッ垂れたまま、校庭にある[集団]の群れに俺と大人しく向かった。
全校生徒、強制参加の後夜祭は校長の挨拶から始まった。
長いのか短いのか、聞く振りをして流している生徒ばかりだ。
スピーチの後、校庭の真ん中に建てている櫓を囲み吹奏楽部の生演奏でフォークダンス。
校庭には提灯で灯りを作っている。
[盆踊り大会]の間違いじゃないだろうか?
しかも何故か皆テンションが高い。
この後打ち上げ花火で終了となる。
「あれ?留衣、笠井は?」
出席点呼を済ませた公平が先に俺と麻琴を見付けて寄ってきた。
側には[小松美希]さんが控えめに立っている。
[へのへのもへじ]だが、やはり何処か母に似ているような……じっと眺めていると、公平が腕を怒突いてきた。
「笠井は?」
「ああ、断った。公平が美希さんと組むから、麻琴の相手がいなくなったし」
ケロリとして答えると、公平は照れたようにムスッとして「あっ、そ」とソッポを向いた。
麻琴は美希さんに近付き、喜んで何やら話していたと思っていたらクルリと振り向きニッコリと笑ってきた。
「じゃ、留衣、公平、あんた達で踊りなさい。私、美希さんと踊るから」
点呼は男女ペアで済ませたのだから、中でペアを変えてようが構わないだろうと言う。
身代りの早いヤツだ。
その隣で腕を組まれ、困っているのか嬉しいのか解らない表情で([へのへのもへじ]だからな)美希さんは笑っている。(たぶん)
「麻琴、ホント、ムカつく」
ボソッと呟いて、公平は美希さんを引き寄せ、麻琴を睨んだ。
いつになったら仲直りするのか……脱力して二人を眺めた。