10月・大切だから大事:14
俺はこういう事に慣れていない。
どうしていいのか解らないが、俺には麻琴を放って置く事が出来ない。
麻琴は[大切な]親友だ。
「ごめんな。それと、だいぶ前のことだけど、チョコ貰って返してなかったよな?これ、お返し。今頃になって、ごめん」
俺は夕べ母の為に焼いたクッキーを小袋に詰めて持ってきていた。
小さい頃『義理にはキャンディー、友達にはクッキー、両思いならマシュマロ』とホワイトデーのルールだと母に教わったのを思い出したのだ。
勿論、母と雅ちゃんには強制的にマシュマロを買わされた。
笠井はゆっくりと両手を差し出してきたから、その手の上に乗せた。
「ありがとう……ごめんな、応えてやれなくて。じゃ、俺行くわ。ほんと、悪い!」
笠井の声が掻き消えないようなのか、黙っていた取り巻きに口撃をされないうちにと、その場から急いで離れる。
案の定後ろから「最低っ!!」「バカー!!」「無神経男!!」などとものすごい勢いで追い討ちがかかった。
カタカタと震えていた笠井の声は聞こえなかったけど、泣いてんだろうな……罪悪感がじわりと湧いてきた。
教室に戻ると片付けはそこそこに数人の生徒がいるだけで、麻琴の姿がない。
「麻琴は?」
見回して近くに居た男子に問い掛けると「鞄持って出て行った」と返ってきた。
今日は[手ぶら]の俺は踵を返して玄関ホールへ向かって走った。
ホント、麻琴はバカだ。
生徒は皆、校庭に集まるのだから帰宅する麻琴を目に止めるヤツだっているはずだ。
俺の予想は当たっていて、正門に向かう途中で麻琴は二人組の男子に捕まっていた。
しかも何やら揉めている。
どうせ麻琴の口撃が男子を怒らせたに違いないと予想がつくと自然とため息が出た。