10月・大切だから大事:12
「麻琴、マジ、うるさい。お前は小姑か?」
「冗談でしょ、公平の小姑になんか絶対ならないわよ。美希さんの目が今以上腫れたらあんた、許さないから」
剣呑とした二人の睨み合いは続くようで、俺は何と口を挟めばいいのか解らない。
「うるせぇよ、お前に関係ないだろ」
「大ありよ。美希さんは私の[芽衣さん友達]なんだから!」
〈母?!〉
「唯一私と芽衣さんの話しが出来る人で、芽衣さんのファンなんだからね!」
意味不明な力説に圧倒されて開いた目が乾く。
ガタリ!と大きく音をたてて立ち上がった公平は
「知ってるよ!うるさいんだよ、お前!お前には絶対芽衣さん渡さないからな!」
と舌打ちをして訳の解らない捨て台詞を残し、勢いよく教室を出て行った。
〈お前のモンじゃねぇよ!〉
唖然として背中を見送ったが、〈ふんっ!〉とまたも息巻いて腕を組んだ麻琴に呆れたように目を向ける。
「麻琴って、バカだろ?」
そう言うと麻琴は目を吊り上げて剥れた。
「頭いいクセに……どうすんだ?」
「何がよ?」
「後夜祭。美希さんと組んでんだろ?公平に譲っちゃって、どうすんだ自分は?」
麻琴は〈はっ!!〉として、固まった。
「べ、別に私不参加でもいいし……!単位なんて、他で取れるもの……い、イベント単位なんて、いらないもの!」
明らかに動揺しながら強がる麻琴に、笑いが込み上げてくる。
「ご来訪の皆様にお知らせします。本日のイベントは終了となります……」
校内放送がかかり始めた。
文化祭は終わり、後片付けを始めなければならない。
「麻琴、帰るなよ。俺の単位確保に付き合え」
「はぁ?!何言ってんの?!留衣には笠井さんがいるじゃない!」
「うん。断ってくるから、待ってろ」
「っっ?!ばっか、じゃないの?!付き合い始める彼女差し置いて、行けるわけないでしょ!」
「付き合わねぇし、彼女でもねぇぞ。後夜祭に行こうってだけだろ。あっちは友達多そうだし、麻琴は他にアテがないだろ。いいから、待ってろよ」
素っ気なく告げて立ち上がる。
パクパクと声を詰まらせる麻琴を余所に、俺は騒がしくなった校内を笠井理子探しに出歩いた。