5月・麻琴の事情:4
「今日は鳥の照り焼き、シーザーサラダ、タケノコご飯、豆腐のお吸い物……」
「鳥照り……」「タケノコご飯……」
母の好物と雅ちゃんの好物だ。
喜びを全面に出してくる大人達に、俺は器を差し出しダイニングテーブルに並べてもらう。
夕食はいつもより美味しく、二人に満足してもらえた。
「まだ入るだろ?デザート作った」
基本、俺は食事は作っても菓子作りはしない。
なぜなら、お好み焼きをひっくり返すのは母というように、パンケーキすらひっくり返す事が苦手なのだ。
だし巻き玉子は当然、母より上手く作れるんだけどな。
「「おおおぅ!」」
と感嘆の声をあげて驚いてくれる。
背中がムズムズして照れ臭い。
冷蔵庫から初めて作った[プディング]を差し出すと目を輝かせて眺め、手を合わせて「いただきます」と声を揃えてくれた。
「雅が来るから張り切ったんだね、留衣」
「美味しいよー!これ、美味しい!」
あぁ、作って良かったと思える瞬間だ。
当然公平と麻琴の分も構えた……分量が5人分だっただけだけど、張り切ったことが報われ、俺個人は本日の夕食に大満足だ。
食事の片付けも終えて俺が皆の寛ぐリビングに移動出来た頃、歓談の最中、公平が尋ねた。
「雅ちゃんは何時まで居るの?」
「んー、3日?この近くに引っ越して来るの、今回はその下準備なんだ」
その話を母から聞いた時、俺は3日間の食事のメニューを考え始めた。
ゴールデンウィーク一週間前のことだ。
雅ちゃんが結婚してからろくに会えなかったのだ、せっかく一緒に居られるなら喜んでもらいたい。
俺が出来ることは食事を構える事くらいだから。
母と雅ちゃんのため、喜んでもらえるように。
「ねぇ、芽衣。聞きたいことがあるんだけど」
俺が明日の三食メニューに頭を使っていると、今度は雅ちゃんが母に向かって問い掛けた。
「?」と表情を作り首を傾げる母に「留衣君結婚するの?」と爆弾発言をかました。