10月・大切だから大事:9
ちょうど昼だということもあって、食べ物屋を重点的に回った。
母は細い身体に次々と的屋物を入れていくから、4品目から麻琴は着いていけず、6品目で公平もギブアップした。
「何されたんだ?」
俺は不機嫌な顔で付き合う城崎に(可哀想過ぎて)尋ねた。
城崎は的屋のたこ焼きを食べながら目を向けてきたが直ぐには答えず、時計を気にしながらため息を吐いてボソリと呟いた。
「”泣き落とし“。芽衣、時間だ、帰るぞ」
「ええ?!まだ見て回りたい!」
「約束だ!帰るぞ」
「やだ!もう少し回る!」
母と城崎はリンゴ飴屋の前で睨み合った。
周りの目を集めているのに良い年をした大人が……恥ずかしい。
「まだいいだろ?!」
「そうよ、まだ見てないとこたくさんあるのに!」
公平と麻琴が口添えするも、城崎の態度は変わらず。
「いい加減にしろ。食ってばっかじゃねぇか。仕事放棄したままなんだ、帰るぞ!」
「あんただって食べてんじゃない。青のりつけた顔で凄んでも怖くないわよ」
ふんっ!と麻琴に指摘されて城崎は怯んだ。
クスクスと周囲からも笑い声が起こる。
[いい男]が台無しだ。
「解った、美術部の展示だけ見て帰る」
周りの視線と嘲笑に流石に恥じを思ったのか、少し落ち込みながらの母の一声でその場は収まった。
母と城崎は美術室をゆっくり、たっぷり堪能し、来てから2時間で帰っていった。
城崎も[絵]に向かう母には普通に弱いようだ。
「留衣、クッキー美味しかったよ。また作ってね」
去り際にそう告げられて俺は秘かにニヤけた。
「お前、菓子作ったの?」
「ああ、まぁな」
母と城崎を見送り、教室へと戻りかけた通路を歩き、腹を擦りながら尋ねる公平に素っ気なく答えると、「すげぇな」と笑った公平は正面を見つめて表情を変え……静止した。