10月・大切だから大事:8
母もプロだ。
仕事に対する姿勢は真摯で誰にも見せたくないくらい……キレイ、に見える。
息子がそんな事を言うと引かれるし、キモいから口には絶対出さない。
「芽衣さーん」
「チッ……城崎め……いつか殴る」
物騒な台詞を吐いて二人はまた[城崎バカ]談義をしながらそれぞれの自宅へ帰った。
──城崎に同情が湧きかける。
俺だってホントは母と文化祭を見て回りたいが、恥ずかしくて言えるか。
16歳だぞ。
ため息を吐いて母の為に夜食を作った。
ついでに、少しでも機嫌が良くなるように菓子を用意してやった。
喜ぶといいな……。
文化祭2日目、一般が校内に入り込んでくる。
保護者や兄弟姉妹、中学の友人や近所の者と、そうでない者。
そこで俺は気付いた。
俺が判別出来る顔は男性だけかと思っていたが、そうではないらしい。
小さい子供やかなり年上の女性の顔もはっきり解る!……いや、それは知っていたが。
だけど同年代の近い歳の女子はやはり全て[へのへのもへじ]……何故だ?
午前中は[へのへのもへじ]を相手にする事が多く、疲れた。
笑っているのか、怒っているのか、口調でしか解らない……半泣きになった。
接客をしながら悩んでいると「留衣見っけ!」と母が城崎と現れた。
「「芽衣さん!!」」
公平と麻琴が顔を輝かせて喜ぶ。
「どうしたの?」
「仕事は?」
「良かったー!一緒に回ろ!」
二人の勢いに俺は声が出せない。
「ふふふん……留衣のイベントに私が出ない事はない!いざ、遊ぼう!!」
「一時間だけな!」
機嫌良くはしゃぐ母を不機嫌そのもので城崎が刺す。
「どーゆー事?」
「芽衣に脅された」
店番を交代してもらってやっと母の傍に立って尋ねると、城崎が忌々しく答えた。
「留衣、お前は母親をどういう風に躾ているんだ?こんなに我が儘で強情で……人を脅すようなヤツじゃなかった!」
城崎は舌打ちをしながら苦虫を潰したような顔をする。
「……俺は育ててないぞむしろ逆だ」
正論で返すも、母と公平と麻琴は跳び跳ねながら先を行く。
母の腕を掴もうとする公平を、すかさず後ろから怒突いて排除した。