10月・大切だから大事:6
「ちょっと、何でよ?!」
「お前、芽衣さんになんて事言うんだよ!」
尽かさず公平と麻琴が食って掛かる。
が、城崎は面倒臭そうに腕を組んだまま「当然だ。締め切りが近いんだ、芽衣に遊んでる時間は無い」などと冷たい言葉と切れ長の目を母に向ける。
「ぐっ!!」と声を詰まらせる母に追い討ちを掛けるように冷めた声は続く。
「芽衣、お前が望んだ仕事だろ。クライアントを失望させるのか?個人との信用は1度失うと2度目はないんだぞ、解ってんだろ?お前が守らなきゃ終わる、そういう仕事をしてんだろ。遊んでる暇があるのか?」
城崎の言葉に母は何も返せず、俺の隣でじっとソッポを向いて口を尖らせた。
「芽衣さん……」
「芽衣さんの仕事って、あんたが持ってくるんでしょ。何よ、クライアントって?」
心配そうにする公平と対照的に、麻琴は納得いかない様子で詰め寄る。
城崎は難しい顔を作って俺達を見たが、理解出来るように言葉を選んで説明を始めてくれた。
「お前達の[芽衣さん]は今画廊の仕事を引き受けている。画廊商と契約して、個人相手に絵を売って貰うんだ。夏に描いた絵の1つが売れてな、買った人が小振りの物も欲しいと言ってきた。他にも芽衣の絵を気に入った者はいて、小さい物なら買うと言われている」
その為に母は今忙しいのだと話す。
その他にも出版社の仕事もしているから母に[遊ぶ時間]は無いのだそうだ。
「でもちょっとくらい……せっかく、留衣の初めての文化祭……」
母は城崎の目が刺さりながらもブツブツと抵抗を試みる。
「締め切りは4日後だが?仕上がってんのか?んん?」
凄みを見せる城崎に、母は敗れた。
「ま、まあ、一般が入れるのは明後日の日曜日だし、頑張れば、ね?」
「そ、そうそ、芽衣さん、頑張って!」
気遣いの出来る公平と、焦った麻琴が声を掛けた。