10月・大切だから大事:2
文化祭の準備は続く。
学校中が浮き足立っていて、皆、楽しそうだ。
麻琴の[事件]は俺と公平の[早とちり]で片付いた。
麻琴は白状してから隠す事を止め、「もう!また?!しつこいわね!」と机の中から[手紙]をさらけ出す。
前は隠すように握り潰して持ち帰っていたようだが、今は堂々とベシベシと机の上で叩きつける。
弁天高校は土足で横行するから下駄箱がない。
アドレスを知らない[男子]達は麻琴を誘うために手紙を出しているというのに当の本人にはまったく伝わっていない。
「行くわけないでしょ!何されるか解らないじゃない!女に呼び出しくらっても勝つ自信あるけど、男に勝つ自信ないもの!」
というのが麻琴の正当な意見らしい。
「何で闘う事前提?!麻琴に告りたいだけだろ?読んでやれよ」
「読んだわよ。……あんた達が読めっていうから……3人とも同じ場所に放課後って書いてあるんだもの、集団で告白なんてしないでしょ?怖いわー!」
公平の気遣いに麻琴は怯える振りをして見せ、手紙を俺に差し出してきた。
「ウチで焼くとママに怒られるの。……この間見付かって『火事になったらどうするの!』って怒られたし……ちゃんとキッチンで焼いてたのに」
麻琴にとって[手紙]は邪魔でしかないらしい。
拗ねた素振りでブツブツと文句をいう。
〈ムゴイな……男達〉
可哀想になった。
が、一向に呼び出しに乗らない麻琴を諦める気がないのか、文化祭1週間前、ついに教室に現れ始め、移動中に声を掛けてきたりし始めた。
麻琴はビクつき、話しを聞く前に逃げ出し……男供は追い掛ける。
「なんなのよ、あいつら!」
「麻琴が応じないからだろー!もう、さっさと相手決めて終わらせろよ!」
初めは麻琴の追いかけっこを楽しんでいた公平は飽きてきたのかマトモな事を吐いた。
「嫌よ!あいつらの中から選ぶなんて!」
「別にあいつらの中から、なんて言ってないだろ。女子と組んでも良いんだし」
公平の言葉に麻琴は目を見開いて固まった。
「……そうよね、そうだわ。公平、良い事言った」
素面でそう言葉に出すとそそくさと教室を出て行った。