5月・麻琴の事情:3
俺は確かに浮かれていた。
その理由を知らない麻琴はずっとムクれたまま夕方まで俺の部屋で過ごし、その間俺は雅ちゃんのために寝床を準備した。
デートを終わらせた公平が来て初めて理由を知って、麻琴は口を開けて呆れた。
「雅ちゃんかぁ、4年振り?相変わらず可愛いんだろ?芽衣さんの親友はやっぱり芽衣さんと同じで年とらないんだな」
「公平は彼女の事、知ってるんだ」
「勿論、結婚前の数ヶ月ここに住んでたし、留衣の[初恋]の相手だからな」
夕食の準備に励む俺の前でダイニングテーブルに並んで座って話している。
俺の[初恋の相手]……間違いのないその事実に麻琴は声をだせないでいた。
「留衣のデスクにあるだろ、写真。あれ、ここに一緒に住み始めた記念っつって俺が撮ったんだ。っていうか、撮らされた……まぁそれから夕飯もゴチになってんだけど」
「あの時だけだって言ったのに、公平が勝手に毎日食べて帰るんじゃないか……公平んトコの親、ホントに心配してねぇの?」
「平気平気、逆に食いぶちが減って感謝してるって。礼とか挨拶とかタマにしてくるだろ」
公平の家は近所で、両親ともに優しい気さくな人達だ。
6歳離れた妹もいる。
俺が遊びに行って長居することはあまりない。
殆ど公平の方がやって来るし、俺には母の世話をするという大役がある。
母と雅ちゃんは20数年来の親友で、彼女は俺が生まれた時から母の側にいた。
目が大きく色白で母より10センチほど背が低い。
精力的でいつもハツラツとしていて、母とはちょっと違う気の強い女性だ。
(母は見た目通り気が強い)
「留衣ー、お腹空いたー」
「今日のご飯何?」
夕飯が仕上がる頃二人は部屋から揃って出て来た。
並んでいる二人の姿に俺は顔が緩んで仕方がない。