9月・真実と事実:20
目の前の真剣な顔をする俺達をシゲシゲと眺めた麻琴は、暫くして呆れたように息を吐いた。
「違うわよ……確かに階段からは突き落とされたけど、あれは事故だし」
麻琴は少しバツの悪そうな顔をして、落ち着いた様子で話し始めた。
「事故?」
「事故?あれが?」
「そう。それに……あの時のは笠井さんじゃないし……笠井さんの取り巻きだし。ちょっとふざけてた所にたまたま私が居て、ぶつかっただけらしいし。ちゃんと後で謝ってもらったわよ。まぁ、確かに、笠井さんとは仲悪いけど……嫌がらせなんて中学の時以来されてないわよ」
麻琴の告白は俺達の斜め上をいく。
「中学って……」
「中1の時に、呼び出しくらったの。3人だったかな?留衣に近付くなって言うから、私は留衣に興味ないし、芽衣さんに会ってるだけだって言ったのに、突っ掛かってきたし……先に手を挙げたのはあっちよ?だから、反撃して往復ビンタ咬ましたら、泣いちゃって……」
恥ずかしそうに目を游がせて麻琴の告白は続いた……
「制服は?!水掛けられたんじゃ……」との公平の問いに
「ああ、あれは……」と、チラリと俺を見て、公平を見て言葉を濁した。
「あれは……あれも、事故。笠井さんを探して廊下を急いでたら……ぶつかっちゃって」
「誰と?」
「……さんと」
「誰?」
「……き、さんと」
「聞こえねぇよ、誰だよ?!」
「美希さんとよ!小松美希さん!絵の具を洗うバケツ持ってて、廊下の角でぶつかってその水被ったの!」
不貞腐れた麻琴から出てきた名前に俺は疑問符をたてた。
「こ……美希?」
公平が僅かに驚いた様を見せた。
その名前に思い当たるものがあるらしい。
俺も、どっかで聞いたな……誰だっけ?