9月・真実と事実:18
何かの遊びだとでも思ったのか、麻琴は昼を過ぎると何も言わなくなった。
その代わりチャイムが鳴り始めると同時に勢いよく立ち上がり、脱兎の如く教室を出始めた。
「甘い!」
公平の声に合わせて後を追い掛ける。
バタバタと俺達の追い駆けっこは始まった……途端に終わる。
「廊下を走るな!」
教科担当教員に止められたからだ。
麻琴は大人しく頭を下げ、「チッ!」と舌打ちをした。
その後はブスッ垂れた顔のまま授業を受けて放課後となり、帰宅して1日が終わった。
何事もなく終わって晴れやかな俺達と違って麻琴は苛ついていたが気にしない。
麻琴の為だ。
母はそんな俺達に怪訝な顔をしていたけど、それも気にしないようにした。
このやり取りは3日続いた。
俺と公平は自分たちのトイレは交代で、体育の着替えも交代で行い、麻琴と違った選択科目もチャイムが鳴るまで麻琴の側に居続けて授業に遅れて……遅刻がついた。
4日目の朝、いつもの時間に公平が来ないので気になって玄関を開けると、門柱に身を潜めている公平を見付けた。
「公平、何やって……」
「しっ!」
声を掛けると遮られたから、何をしているのか聞けずに居ると「確保!」と飛び出して麻琴を捕まえた。
「な、な、何?!何なのよ!あんた達!!」
「麻琴、お前芽衣さんに会わずに登校しようとしたな!ふっふっふっ、甘ーい!」
「それはっ……あんた達がっ!」
麻琴は怒り半分で抵抗を試みたが公平の推理が当たっていたらしく、反論することを躊躇った。
「何年つるんでると思っているんだ、お前の事などお見通しだ。今日あたり素通りしてくるんじゃないかと思ってたんだ、俺は!」
と、ふんぞり返って高らかに笑う公平に麻琴は苦々しい顔をして睨みつける。
「……麻琴、公平、とりあえず中入れ。近所迷惑」
住宅街の朝っぱらから高らかな笑い声は通勤通学途中の目を集めた。