9月・真実と事実:13
不機嫌?そう思える様を見せて、城崎はマンションを後にしてしまう。
俺はただ後に着いていくだけで、会話は無かった。
俺は手の中の本を握っているのかすら判らず、たぶん、茫然自失状態だったんだと思う。
だから城崎はそんな俺を気遣って何も言わず無言だったのだろう。
それにしても、案外簡単に知る事になった。
知りたくて城崎に頼ろうかなどと考えていたのに
〈なんだ……簡単な事なんだな〉
膝の上に置いた本には笑顔の女性モデルが表紙を飾りこちらを見てくる。
キレイな、写真だ。
「帰って、落ち着いたら読んで見ろ。心配すんな、芽衣は知ってる。聞きたくなったら、聞けば良い……いいな?」
家が近付くと城崎は念を押すように言葉を連ねてきた。
素っ気なく冷たく感じる態度はコイツの優しさなんだろうか?
放っておかれた分わりと落ち着いて、俺は素直に頷く事が出来た。
自宅前で降ろされると「寄っていくか?」と尋ねる俺に
「進歩したな……いや、成長か。構ってやりたいが俺は忙しいんだ、また今度な」
と笑いを堪えながら返してきた。
一人で家に入るのが躊躇われるだけなんだが、城崎の都合を歪めるわけにもいかない。
「そっか、じゃ、またな。……コレ、ありがと」
ボソボソと礼を述べると城崎は我慢の限界を越えたのか、吹き出して顔を伏せ、身体を震わせた。
この状況にものすごく居たたまれない……。
気恥ずかしさが込み上げてきて「さっさと仕事に行け!」と毒吐いてしまった。
城崎は止まらぬ笑いをそのままに、「じゃぁな」と告げて走り去った。
敢えて言う、俺は16歳になった。
もう、それほど子供でもない。
手にした本は手汗を掻いていたにも関わらず濡れていなくて、僅かな水滴はキレイに拭き取れたし、母は部屋に籠っていたし、自室にそのまま置くことが出来た。