9月・真実と事実:12
「それが、お前の[父親]だ」
素っ気なく簡単に告げられた言葉に反応出来なかった。
渡された装丁本は両手に収まり、艶を出している。
「芽衣には了承を得た。どうせお前は聞きだせないだろうからな」
ため息混じりの言葉が耳から脳内を掠めて抜けていく。
「いつか聞かれるだろうって笑ってたぞ……会話しろよ、お前ら」
城崎がソファーに腰を降ろしてタバコに火を付ける。
「詳しく知りたければ今度こそ芽衣に聞けよ。俺は仲介屋じゃないんでね」
煙が吐き出されて部屋の中を駆けて消えた。
無言の俺を気遣ったのか、城崎は気配を殺した。
装丁本は差ほど重くない。
むしろ軽い物ではないだろうか。
帯が掛かっていて、そこに大きく名前が書いてある……[能見波留生]
〈のう……み、は……る……き〉
“写真家・能見波留生、初写真集”
北条正史氏の愛弟子初の集大成!
「しゃ……しんか?」
いつの間にか震え始めた手を使って本を捲った。
開いて直ぐに本人のスナップ写真と簡単な経歴が載っている。
赤茶色の長髪を後ろで軽く束ね、がたいの良いカメラを手にしてラフな白いシャツを羽織ったカジュアルな格好で、人懐こく顔を緩めている。
これが[父親]?
若っっ!!
どうみても20代半ばにしか見えない。
食い入るように見詰めていると「それ、7、8年前のだから」城崎が話し掛けてきた。
ガバッ!と顔をあげて見せるとタバコは既に消されていて、城崎は表情のない顔をしていた。
「もういいか?……俺はまだ仕事がある」
どこか疲れた様で息を吐きつつ立ち上がった。




