9月・真実と事実:11
歩いて20分ほどの距離は車だとあっという間だ。
だから、会話など出来るはずもない。
「どうだ?ちょっと俺に付き合うか?」
車を発車させると直ぐに城崎が話し掛けてきた。
バックミラー越しに目が合うと、口元だけを微かに上げて「止めとくか」と告げるから「いや、つき……あって、やる」とつい口から言葉が出た。
のせられているように感じてバツが悪い。
だからニンマリと笑う城崎を見ていられず、目を逸らして行き過ぎる家屋を見続けていた。
車は住宅街を抜けビルの建ち並ぶ中を抜け……どれくらい走っただろうか、見知らぬマンションに辿り着いた。
5階建ての真新しい高級マンション。
周りもまだ新しい戸建てが建ち並ぶ新興住宅地の中にあった。
「出版社員って、給料いいんだな」
セキュリティガードの堅い玄関ホールで、天井を見上げて呟いた。
吹き抜けのエントランスに、世帯数はたったの10戸。
警備員が常駐しているし、どうみても[場違い]な場所にいる。
「安いよ。俺は特別、知らなかったか?俺は資産家のご子息様だぞ、次男だがな。ほら、来いよ」
城崎は警備員に軽く会釈をしてエレベーターに乗り込む。
おどおどとして着いていくと、〈ぷっ〉と吹き出された──忌々しいヤツ。
5階建ての5階、ガチャリと開けられた扉の中に誘われるまま入った。
何も無い部屋。
静かで簡素。
向かったリビングにはローテーブルと二人掛けのソファーがあるだけで、壁際に低いキャビネット……独身男性にしては小綺麗過ぎる。
「あんた、ホントに住んでんのか?」
物の無さに呆れた声が出た。
クスクスと笑い声を出しながら城崎は「まぁな」と返してきた。
リビングにダイニング、キッチン、風呂、トイレ、寝室が……2つ?
一人で住むには広過ぎるだろ。
「ほら、これやるよ」
城崎はキャビネットに置いてあった1冊の装丁本を差し出してきた。
写真集だった。
「それが、お前の[父親]だ」
素っ気ない声音で軽く告げられた。