9月・真実と事実:10
麻琴はボー……としていたが、ソファーの上で起き上がっていた。
呼び鈴で目が覚めたのだろう。
「麻琴ちゃん、気分どう?城崎さんが家まで送ってくれるって言ってるんだけど、どうする?」
母が城崎からの受け取り物をローテーブルに置いて、麻琴の顔を覗き込んだ。
麻琴は目を擦って母を見てからその側に立つ城崎を見上げ、眉間にシワを作った。
「……芽衣さんが一緒ならそうする」
だろうな。
予想できた解答に俺は「ふっ」と呆れを含む声を漏らし、城崎は口元に手を充てて笑いを堪えた。
「判った、じゃ、準備しよう」
そう言って微笑む母に
「ああ、芽衣はダメだ。締め切りは明日だからな、留衣君、付き合え」
という城崎の発言に母は「うっ!」と呻き、麻琴は不貞腐れて目を吊り上げ、俺は……ドキリとした。
なんで俺?そう言いたかったけど、母が静かに(恨めしそうな目をして)城崎に従ったから言えず、俺は麻琴を連れて城崎の車に乗り込んだ。
麻琴は不機嫌を隠さず、荷物を抱え込んで黙り混む。
その荷物の事を聞きたいと思ったけど、こっそり見たし、城崎がいるしで聞けず、なんとも居心地の悪い状態だった。
「ありがとうございました」
心のこもらない礼を麻琴が吐く。
俺に向けられた台詞でないと解っていても[サボテン]のトゲのように刺さってくる。
睨み付けるような顔の麻琴に対して、城崎は涼しげな顔に笑みを張り付け「どういたしまして、またな、麻琴ちゃん」と逆撫でするようににこやかな声を返した。
麻琴は細めていた目を吊り上げ、肩をいからせて威嚇しているようにも見える。
「じゃぁな、ちゃんと飯食って寝ろよ。また明日な」
早々に城崎と離した方が良いと判断した俺は、在り来たりな言葉しか掛けてやれずに車に戻って手を軽く振り、麻琴と別れた。
麻琴は荷物をぎゅっと胸に抱えて俺達を見送っていたけど、踵を返してアパートの中に駆けて消えた。