9月・真実と事実:6
それでも麻琴は何も言わず帰ろうとするから「麻琴、やっぱ一緒に帰るよ」と俺は声を掛けずにはいられなかった。
「いいよ、留衣はアホなんだから授業受けなきゃ後で困るよ!」
「大丈夫だって」
「いいから」
「送る!」
「いいって!」
「送るっ!」
「いいっ!!」
「麻琴!!」
俺と麻琴の言い合いはクラスに響いた。
俺の怒鳴る声にビクつき、麻琴は青冷めて震える。
ああ、こいつ親父のせいで[男が怖い]んだっけ──ふと、そんな事が頭に過る。
それでも謝る気もなく、ため息を吐いた。
自分の荷物をまとめて帰宅準備を整えた。
「んじゃ、俺もかーえろっと」
静観視していた公平が努めて明るく空気を割いた。
公平の機転に笑みが浮かぶ。
麻琴は何も言わず、下を向いていたけど、俺達は構う事なく[早退]出来る事を喜びながら歩いた。
「あんた達バカでしょ?後で泣きついてきたって勉強教えないからね!揃って赤点取れば!」
麻琴は急ぎ足で俺たちを追い越し、真っ赤な顔をしてプリプリと先を歩いた。
そんな麻琴の態度に「俺達に向かって意地張るとか……甘いな麻琴も」そう耳打ちしてきた公平と顔を見合わせて笑った。
麻琴のそういうトコは[可愛い]と思う。
普段は[サボテン]みたいだがな。
校舎を出ようとすると何処からか誰かに見られている気がした。
後ろを振り返り辺りを見回しても、休み時間終わりかけの廊下にはこちらを気に掛ける者はいない。
気のせい……か?
「留衣、麻琴に注意しとこーぜ」
公平がボソリと呟いた。
「……ああ」
そう応えた。
麻琴はしっかりと前を向いてスタスタと歩いていた。
間違いでなければ、麻琴は誰かに[嫌がらせ]を受けている。
階段から落ちた時からだろう。
いや、その前からか?
とにかく、何も言ってこないなら、勝手に心配するしかない。