8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:19
「本気で、好きなんだって……何度も言ってきた……その度に子供だからって、ガキだから相手にしてもらえなかった!だけど、言われたんだ……『大人になったら考えて』くれるって」
顔を覗かせた公平は、泣いていた。
誰とも視線を合わせず、膝の上で顔を隠すようにして、泣きながら、声を震わせる。
本気……って、母を?
公平が?
俺は思考まで停止して茫然と立ち尽くした。
静かな室内に微かに公平の鼻を啜る音がする。
落ち着きを取り戻したのか、母がゆっくりと公平に近寄っていく。
「母……」と気付いた俺は焦って声を掛けたけど、母は僅かに微笑んだだけで、公平の側に屈んだ。
「うん、ごめんね。ちゃんと応えてあげなくて、ごめん」
優しい声で話し掛ける。
俺は近寄れなかった。
母の声に公平が顔をあげ、母はその目を真っ直ぐに見て
「あのね、公平くんの気持ちはとても嬉しい……ホントだよ。でも、私、誰も好きになれないんだ」
母は柔らかい、哀しげな声でそう伝える。
「だから、ごめんね」
静かだった。
声を殺して、顔を伏せる公平を母は包み込むように抱き締めて『ごめん』と繰り返した。
『誰も好きになれない』どういう意味なのか問うこともなく、公平は暫く母の中で震えていた。
この時、俺は身動き出来ず、何も言えず眺めていた。
仕方ないだろ、公平は親友なんだ……今だけ、貸してやってもいい。