8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:17
少し早いがこのまま会場まで送ってやると言うので、城崎も家に上がる事になった。
「会場って、何?」
「……お前ら親子で会話しねぇのか?お前の好きだって俳優のプレミヤ試写会会場だよ。芽衣に絶対手に入れろって脅迫されて無理言って手に入れてやったんだ、感謝しろ」
城崎はどこか楽しげに話してきた。
それは俳優が舞台挨拶をする一夜限りのもので、城崎には[つて]があるらしい。
仕事をほったらかしにさせるのだ、呼び出した手前無下にするわけにもいかないが、「仕事は?」と聞くと、「ああ、大丈夫だ、デスクワークは嫌いなんでね」などと笑っている。
……少しだけ、前ほど悪くは思えない気がする。
気がするだけだ……俺のヤツへの感触はほんの少し変わったようだ。
ニヤニヤと笑顔を張り付けたヤツは嫌いだが、「あっそ」と素っ気ない返事をして玄関を開けた。
声を掛けて開くドアの先にあると思わないでいた公平の靴を見つけた。
〈今日の事忘れてんのかな?〉
靴を眺めていると家の奥、リビングダイニングの方からガタッ……ガタン!と重いモノが落ちるような音がした───
〈何事だ?!〉
慌てて靴を脱ぎ捨てて音のした所に向かうと、公平が母を押し倒していた。
「俺はっ……もう子供じゃない!好き、なんだって……考えてよ……考えてくれるって、言ったじゃないか!!」
公平の苦しそうな声が響いた。
目の前の光景に唖然として、行動不能に堕ちた。
何?
何だ、これ?
「ねぇ、……芽衣さん」
押し倒された母は身動き一つせず、されたまま公平を直視している。
あまりの出来事に頭と身体がついていけていないようだ。