8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:14
「ふぁぁ……」
欠伸を人目から隠すようにして、片手でタバコに火を付ける。
「4時間しか寝てないんだ……他にもお抱えの作家が何人かいるもんでね。しかも仕事中……何の用だ?お迎えは午後の約束なんだが?」
城崎は[やれやれ]というように、煙を吐き出した。
機嫌が悪いわけではないようだ。
柔らかい、落ち着いた声で笑みを浮かべて俺を見る。
出版社の近く、城崎の指定する小さくも雰囲気の温かい喫茶店内。
俺は母の部屋から城崎の名刺を探しだしてコイツを呼び出した。
やっぱり、母に直接聞けない。
泣いてしまうかもしれない……そう思うと、聞いてはいけないと頭と身体が拒否する。
もっと幼ければ簡単に聞けるだろうなと思う。
聞かなかったのは[その必要がない]と思えていたからだ。
仕事中だと言うくせに、城崎は軽く俺の誘いに応じてくれた。
昼食をとるついでだと言って、連絡すると11時にこの店を待ち合わせ場所にしてきた。
あいにく、俺の腹は[朝食]で膨れているので、食事は注文せずドリンクだけを頼んだ。
席に着いてから注文をして、目の前の水の入ったグラスと城崎に目を向け続けた。
城崎は横を向いて煙を吐き出す。
会話も始められず沈黙の中、頼んだ物が運ばれ、城崎は食事に取り掛かる。
「ホントに食べないのか?遠慮すんなよ、今日は誕生日なんだろ?奢ってやるぞっつっても、お前ガキだし、大人の役目だけどな」
嫌味っぽく聞こえる台詞も冗談のように伝わる。
「朝飯でまだ腹一杯だから……いい」
運ばれてきたクリームソーダに手を伸ばすと城崎は〈ふっ〉と軽く笑った。
「何?」
「いや……親子だな、とね」
その言葉にドキリとして手が止まりかけた。
無言のまま、城崎が食べ終わるまでズコズコとソーダを飲んだ。
観察していてもコイツはカッコいいと思う。
見た目や仕草がいちいち[大人]で、手慣れていてムカツクが、羨ましい。