8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:9
何故だろう……なんだか、哀し気な目をしている気がして、その目は俺を見ている。
コイツ……まさか、な?
「あんた、今でも」
「どうかなぁ」
公平の問いに重なるように発した言葉に再び心臓が跳ねた。
「うーん……確かに芽衣はいい女になってるけど、あれだよなぁ……うーん……ま、昔と変わらず可愛いとは思う。作家として尊敬も出来るし、好感は持ってるよ」
飾らず言葉を連ねる。
城崎はやっぱり[大人]だ。
だけどその笑顔が[作り物]にしか見えないのは何故だろう?
「もういいか?留衣君、そろそろ取り掛からないと作業員が来ちまうよ?」
終わりだ、と壁を張られたように、城崎との対話は強制終了させられた。
その顔にはもう[哀しみ]は見えなかった。
母を[可愛い]と言う。
公平も麻琴も同じ事を言うけど、俺にはそれが理解出来ない。
親を[可愛い]とは思わないものだけど、俺にとって母は我儘で、気紛れ屋で、気が強くて、到底[可愛い]とはかけ離れたモノだ。
まだ聞きたい事はある。
納得してはいないけど、自分の中の疑問が何なのか頭が回らない。
城崎もそれ以上は話す気がないように見えて、俺は黙って玄関に向かった。
「……そんなに睨むなよ」
城崎が面倒くさげに吐いた。
振り向くと公平が突っ立ったまま、まだ城崎に対峙し続けている。
「お前、[公平]だっけ?俺はお前と張り合う気はないよ……無駄だからな。お子ちゃまと遊ぶ時間はないし、[ゴッコ]遊びに興味もない」
「遊びってなんだよ?!俺はしんけ……」
「無駄だよ。お前じゃ芽衣の相手は無理だ……睨むなよ、お前を見てるとイラついてくる。さっさと諦めろ、芽衣はお子ちゃまが相手の出来る女じゃない」
無表情にも見える冷めた顔で突き放すように放った台詞に、公平は鬼の形相で握った拳を振り上げた。
「公平!!」
俺は焦ってその腕を掴んだ。
と同時に城崎のスマホが鳴り出し、城崎は平然とした態度のまま着信をとり、チラリと横目で公平を見て口角を上げた。
「城崎です、おはようございます……」
仕事相手だろうか。
さっきの冷たさはどこへやら……穏やかな口調で話し始める。
公平の腕は震えていた。