8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:5
「たんじょーび?」
「そ、留衣の」
俺の、誕生日。
「今年は金曜日。この日だけは留衣は何もしないでワガママを言って良い日なんだから、朝から甘やかすの。まだ私の子供でいさせてちょうだいな」
母が[ご馳走さま]と両手を合わせながらヘラッと笑うと、麻琴は[ああ、そうか]とでも口に出すように口を開けて頷き返した。
そう、毎年俺の誕生日は母と二人だけで過ごす。
その日だけは一切の家事をさせてはもらえず、母は仕事もせずに俺のしたい事、やりたい事を優先させて動いてくれる。
夏休み中だということもあってか、遊園地、動物園、水族館……映画にコンサート、キャンプに旅行……その都度俺が興味を持っている事や、楽しめる事柄をチョイスしてきて母は1日俺に付き合う。
「別に、もう16だし無理しなくても……」
この年になると母親と過ごすってのもなんだか恥ずかしくなってくる。
だけどやっぱり俺にとって誕生日は特別で、唯一母を独占できる日だし、母が俺の為に張り切ってくれるから1年の中でも1番楽しみにしている日の1つなのだ。
「もしかして、誕生日の為に無理してんのか?」
「もちろん!だって、毎日留衣に家事任せてばっかりだし、母が親らしいこと出来る唯一の日だもん、当然でしょ!だから、金曜日は何もしちゃダメだよ!その為に城崎さんにチケット取ってもらったんだからね!」
そう言い切ると母はまた自室に戻っていった。
嬉しいやら、腹立たしいやら……複雑だ。
何故そこで[城崎]が出てくる?
ため息を吐きながら食器を洗い始めると麻琴がジィー……と眺めてきた。
「何だよ?」
「いいなぁと思って。留衣は息子だから芽衣さんと二人っきりで遊べるから。私も芽衣さんと二人っきりで過ごしたいなぁー」
絶対させないけどな。
頭の中で麻琴を牽制しつつ、無言で返した。
この日から母はまた部屋に籠りきった。
食事を部屋まで持ち込み、画材が揃ったから
とか、仕上げに入ってるからとか理由をつけて出て来ない。
「食器は返せ!」とだけ告げて俺は母を見守った。
そして、木曜日がやってきた。
……城崎がやって来た。