4月・自己紹介:4
「誰がアホだ。麻琴は何でなんだ?小学と中学で留衣と接点なかったよな?」
「ふんっ、バカね。私、中1で留衣と同じクラスだったわよ。それに小学校でも隣のクラスだったし、中3でも合同教科は同じだったでしょ」
アホだバカだと言われてイラつく公平を無視して、今度は話をふられた麻琴が語りに入った。
「私が芽衣さんと初めて会ったのは小五の夏よ」
くそ暑い中、近所の公園で1人ブランコに乗っていた麻琴は木陰のベンチで黙々とスケッチブックに向かう母に出会った。
他人に対して然して興味のない麻琴だが、木陰とはいえ日射しの強い中、子供でさえ外遊びを避けてエアコンの効いた家の中にこもる日に、簡素な人気のない公園で何を描いているのか気になった。
ブランコからの視線に気付いたのか、ふいに顔を上げた母は麻琴と目が合うとニッコリと笑い、何事もない事のようにまた視線を戻して手を動かした。
麻琴はブランコから降りて母に近付き、その手元を覗きこんだ。
「1人なの?」
手を止めることなく話し掛けたのは母の方で、麻琴は頷いて応え「何描いてるの?」と聞き返し、顔をあげ、手を止めて日射しから木陰のベンチへと促してくれる母の手に従い、母の隣に座った。
「この公園。遊具も少ないし狭いからこのノートに収まるかなぁと思って」
にへっと無邪気さを見せた母に麻琴は「ふーん、暇なんだね」と返した。
その言葉に嫌な顔もせずフフフと漏らしてまたスケッチブックに向かった母とそのまま静かに過ごした。
公園が紙に描かれて形になると
「じゃ気を付けて帰るんだよ、バイバイ」
と母は立ち上がり去ったが、去り際にバンドエイドを手渡された。
「私ったら転んで膝を擦りむいてたのよね。そのさりげない優しさにもう胸キュンよ!」
目をキラキラと潤ませて頬を染める麻琴に俺はドン引きだ。
その後、参観日で母を見掛けた麻琴は俺の存在を知り、母の素性を知り、俺に近付いた。
「留衣の友達になれば芽衣さんに近付けるじゃない。当然、留衣がどんなヤツであれ芽衣さんの子供だもの、変人ではないと確信してたし、芽衣さんと仲良くなれれば留衣と仲良くしてなくてもいいと思ってたもの」
平然とキツい事を吐く。