8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:3
広く大きな窓に向かった作業机にはイラスト用紙が束となり、画材道具も整頓されてはいるのだろうが、机の上、半分を占領しているし、描きかけのイラストがトレースの上に乗っていた。
二つあるキャビネットからは、資料やら、書類やらがはみ出し、数ヶ所に積み上げられた分厚い本の山……母の仕事場……汚ねぇ。
床は丸めた紙クズが散乱、ベッドにまであるし、そもそもベッドにキャンパス立て掛けてあるって事は何処で寝てるんだ?!
布団は何処だ?!
なんだ、あの布切れの山は?!
読んで済んだ本は片付けろ!!
本棚はどーした?!
なんで本棚にぬいぐるみなんか置いてんだ!!
食った皿はキッチンに戻せ!!
うぅぅぅー……掃除してぇ!!!
「すご……」
ああ、そうだな、凄い。
麻琴の感嘆する声に俺は脱力して項垂れた。
「きれい……」
ん?きれい?
アホか、この部屋のどこが[きれい]なんだ?
城崎のやつ、よくこの部屋に入って行けるな……そう思い、改めて母の部屋に目を向けた。
「おぉう、これ待ってた。ありがとー」
母は部屋の真ん中で椅子に胡座をかき、城崎からビニール袋を受け取って喜びの声をあげたが、どことなく元気がない。
「んー……後どれくらい?少し根詰めすぎじゃねぇか?何日か延ばしてもいいぞ、締め切り」
「うー……いや、いい。へーき、明後日には仕上げる。細かいのは上げたから確認してくれる?」
母はへらりと力なく笑顔を作った。
城崎は「はい、はい」と二つ返事で机に向かい紙を数枚手に取った。
母が小さく息を吐く──ここまで疲れている母は珍しい。
延ばせる締め切りなら延ばして貰えばいい……そう思って俺は顔をしかめた。
「ねぇ、留衣、あれって天使かなぁ?」
麻琴が俺の隣でヒソヒソと話し掛けてきた。
その言葉で初めて部屋を占領している物に視線を移す。
窓一面ほどのキャンパスには其々青1色と緑1色が塗られ姿の違った人型が描かれている。
一つは双翼、もう一つは片翼の人型だ。