8月・HAPPY[BLUE]BIRTHDAY:2
[休み]だろ?休ませろよ!
俺は[休み]でも忙しいんだよ!
「聞いときなさいよ……せっかくの夏休みなんだから、芽衣さんと遊びたいじゃない!」
麻琴が広げた課題をペシペシと叩いて喚いてきた。
「うるさい」
「はい、そこ!間違ってる!」
文句を口にする暇もなく手元の誤りを正される。
ピンポーン──昼の11時半、麻琴の八つ当たりを避ける良いタイミングだが、これは嫌な予感しかしない。
ため息を吐いて玄関に向かう。
「よっ、これ差し入れ」
しかめっ面で出迎えているにも関わらず、城崎は涼しげな顔で、慣れた様で侵入してきた。
「暑いよなぁー、やぁ、麻琴ちゃん、こんにちわ。芽衣ー、持って来たぞー」
差し出された袋を受け取り、この図々しいヤツを睨みつける。
俺の部屋から麻琴が慌てて出て来て城崎を睨み付ける。
「あ、それアイスだから。早く食えよ」
一言も発していない俺に何も思わないのか、ガチャリと閉ざされた母の部屋のドアを開けた。
なんでお前は平気でドアを開ける?!
いつもそうだ、城崎は平然と母の部屋に入っていく。
「留衣、あいつの態度、なんとかならないの?!勝手に名前で呼ぶなって言ってんのに!」
麻琴はキーキーと苛立ちを俺の部屋のドアにぶつけるように爪をたてる。
何とかしろって言われても、城崎は俺の言葉などのらりくらりとかわしてしまう。
俺の部屋と母の部屋は向かい合っていて、俺は寝る時以外部屋のドアは閉めない。
それは、母の部屋は必ず閉めきられていて、開けていても[壁]と同じ状態にあって不都合はなく、むしろ、いつ母が出て来ても判るようにしてあるからだ。
母の実家に居た時は一部屋に母と二人で過ごしていた。
だから、ここに越してきた時は家事態がちょっと広く感じて淋しかった、というのもある。
「んー、ありがとー」
4時間振りに聞く母の間延びした声にズカズカと近寄っていく城崎が気になり、何気なく母の部屋を覗いた。
大きなキャンパスが二枚……1枚は壁に、もう1枚はベッドに寄り掛かり、8畳間の部屋を占めている。