7月・芽衣の優雅な1日:9
〈昼寝してないのか?〉
朝食にと用意しておいたトーストと目玉焼きを小袋に入れて生ゴミ箱に棄てた。
「留衣!芽衣さん大丈夫なのか?!あの城崎ってヤツ、芽衣さんに無理させてんじゃないのか?!」
夕食にと買ってある鶏肉を唐揚げにしてやろうとまな板に乗せていると、公平がソファーから喚いてきた。
握った包丁をギラつかせて顔を向けると、公平と麻琴は僅かにビクついたように見えた。
「何か言ったか?母の仕事に口出すなよ。面倒臭いから」
二人はいつも以上に大人しく、静かに公平は不貞腐れて夕食が出来上がるのを待った。
城崎にイラついているのは俺だけではないと判っている。
朝夕、母に会いたいがためにウチに来る公平と麻琴も[仕事中]であるから母に会えない時間が増えている。
それはそれで、普段は夕食が出来上がるまで母にべったり張り付いている二人を睨み続ける必要もなく、引き剥がす手間もはぶけているし、食事の準備もはかどり俺は助かる。
だけど、母が倒れるのは初めてで、俺にはショックが大きい。
〈飯くらい食えよ!誰が作ってやってると思ってんだ!〉
唐揚げはいつもより……でかくなって仕上がった。
「デカい」
「デカいね」
「おいひぃねぇ」
夕食は喜ぶ母以外わりと静かに片付いた。
食後直ぐにまた部屋に籠ろうとする母を呼び止める。
「部屋に持っていけよ、後、風呂入れ。臭い」
頑張ると言う母に特別にロールサンドを作ってやった。
仕方ないだろ、朝になってまた出てこなかったら、それこそ俺の心臓がもたない。
母は満面の笑みで俺の頭をぐしゃぐしゃにして「さんちゅー!」などと意味のない台詞を吐き、また鼻歌を歌いながら部屋に戻った。
「お前、トコトン芽衣さんに甘いな」
「芽衣さんが可愛いのよ。あの笑顔のためなら私だって何でもしちゃうわ!」
そう、母の笑顔のためなら、今この瞬間の二人の態度にも目を瞑る。