7月・芽衣の優雅な1日:8
温めた昼食を母が食べている間に部屋着に着替えて洗濯を取り込み、風呂を洗い夕食の準備をする。
キッチンに戻ると公平と麻琴がスナック菓子を食べながら母と寛いでいた。
「芽衣さん、そんなに忙しいの?」
「ちゃんと食べて寝なきゃダメだよ」
「うん、へーき。ありがとねぇ。来月までに仕上げたいだけだから」
母を心配しているのか、二人は並んで座って母に労りの言葉をかけていた。
俺にはかけてこないけどな。
母は睡眠不足のためか、ゆらゆらと身体を揺らしながら笑みを浮かべて立ち上がり、「留衣、ご飯出来たら呼んでねぇ」と畳んだ洗濯物を持ってまた、自室に向かい始める。
「ちょっ、母、これ!……城崎、から預かった」
慌ててカウンターテーブルに置きっぱなしにしておいたビニール袋と書類袋を渡すと
「?……ああ、助かる。足りなかったんだよね、画材。待ってたんだ……っと、こっちは……おお!流石!仕事早いな城崎さん!」
書類袋の中を覗き込んだ母は顔を輝かせて喜んだ。
何が入ってたんだ?
「るーい、母頑張るぞ!楽しみにしてな!」
何の活力を得たのか、母は訳のわからない事を告げ「ふん、ふん」と鼻歌混じりに部屋に戻った。
城崎からの届け物に足取りも軽く自室に消えた母に大きくため息が出て、自然と顔をしかめてしまう。
何をやってるんだか……。
今まで食事もとらず仕事に励んでいた事などない。
腹が空くと必ず何か食べに出てくる。
それを今回はする事もせず、部屋に籠っている。
城崎のヤツ、一体どれ程の仕事量を母にさせているのか……今度会ったらシメテやろうか。
着さらしたシャツや顔にまで絵の具をつけ、髪もボサボサで目の下にうっすらと隈があった。
夜中に起きているのはよくある事で、その分昼寝をしていると言っていたのに。