7月・芽衣の優雅な1日:7
少々乱暴気味に引っ付かんで麻琴と車から降りた。
「じゃ、またな留衣君」
にやついた顔で城崎はまた静かに発車させて去った。
運転しながら笑っているのが想像できるとイライラは増す。
「おい!何でアイツの車で帰ってくるんだ?!」
家の前で城崎の車を睨みつけていると公平が慌てて駆けてきた。
「公平……そこで会ったんだよ。お前、早いな、もう別れてきたのか?」
「ちゃんと送ってきたんでしょうね?」
俺と麻琴の問いに公平は答えず苛立ちを表して「アイツっ……!」と呟き、姿の無い車を睨みつけていた。
公平は居なくなった城崎の車を睨みつけるも、踵を返して家のドアに向かった。
後を追うようなかたちでドアに向かい、追い抜き鍵を開けて中に入ると、いつも通り家の中は静かで……
「っ?!母?!」
母が自室から半身を投げ出し、うつ伏せて倒れていた。
「「芽衣さん?!」」
慌てて3人で近付くと母は油切れの機械仕掛けのように腕を上げて俺の手首を掴んできた。
「……る、い……腹、減った」
……生きているようだ。
「何やってんだよ!飯あんだろ、食えよ!!」
思わず腕を振り払ってしまった。
安堵の息を吐きつつ母の腕を掴んで引き連れてキッチンに向かう。
母は大人しく引きずられる。
母の腕は細くて、軽い。
そういえば、朝、声を掛けたが返事は無かった。
カウンターテーブルには構えておいた朝食と昼食がラップを掛けたまま放置されていた。
とりあえず、水を与えて昼食を温めてやる。
「何やってんだよ、丸1日食ってねぇじゃねぇか!」
夕べ、食事の後直ぐに部屋に引きこもった母とは朝から会っていなかった。
仕事中に邪魔をすると機嫌が良くないので、なるべく部屋には入らないようにしてある。
「だって、間に合わないから……眠いし……動けなくて」
水を飲み干しながらモゴモゴと言い訳をしてくる。
こんなんでよく『自立する!』などと言えたものだ。