7月・芽衣の優雅な1日:6
城崎はクスっと笑い「芽衣のとこに行くとこなんだ、乗せてってあげるよ。彼女……麻琴ちゃんも一緒にね」と、笑顔で話し掛けてくるヤツに俺はぶすったれた顔しか向けられない。
「別に、いい。もうすぐそこだから」
「そう?でも俺が困るんだよな。ここで息子に気付いたくせに放置したのかって俺が芽衣に怒られちまう。それに、麻琴ちゃん、まだ足痛いんだろ?……乗れよ」
「私は平気です。気易く名前、呼ばないでくれます?」
「ぷっ……くっくっくっ……ま、まぁ、いいから、乗れって」
城崎は何が可笑しいのか押し殺すように肩を震わせて笑い、強制的に俺達を車に乗せた。
押し切られた。
後部席に座った俺達に城崎は半笑いで運転を再開させる。
「タイミング良かったなー芽衣に頼まれた物持って行くとこなんだ」
革張りシートのセダン車、高そうなスーツにブランド物だろう腕時計……こいつ、以外と金持ちだな。
こいつを見るたびに思う。
カッコいい……ムカツク。
「しかし、ホント……いや、二人は付き合ってんの?」
は?!
城崎がバックミラー越しに話し掛けてきた。
「いいねぇ、留衣君は芽衣に似てるな」
「いや、違うし!!」
「付き合ってませんけど!!」
何を言い出すのか、二人して全力で否定した。
ははは……などと声を出して笑い出し、「仲良いねぇ……くっくっくっ」とハンドルを握りながら暫く止まらなかった。
何がそんなに面白いのか、こっちはイラついて仕方がない。
「担当さんって頻繁に作家のとこに足運ぶんですね。前の方はそうでなかったみたいですけど?」
麻琴もイラついているのか、いつもに増して刺々しい口調で目を細めてさえいる。
俺が思っていたことと同じ事を思っていたようだ。
「ん?ああ、今はね。芽衣にとって忙しい時期だし、しっかり仕事して貰うために俺はフォローを欠かせないんだよ」
城崎は楽しげに言うと家の前で車を止めた。
「じゃ、これ、芽衣に渡しておいてくれる?これから別の仕事があるから上がって行けないんだ」
ニヤリと口元だけを上げて俺にむけてビニール袋と書類袋を差し出してきた。
母に会って行くと思っていたからホッとした表情が出ていたのだろうか、笑う城崎にバツの悪い顔を向けてしまうと、またも声を押し殺して肩を震わせる。
気に入らない!!