4月・自己紹介:3
「留衣は芽衣さんの魅力に気づかないんだな」
自分の母親の魅力について語れる息子がいるだろうか?
ドン引く俺に「しょうがないよなぁーお前お子ちゃまだからー」とニヤけて語りに入る。
「俺が芽衣さんに会ったのは留衣が転校してくる前の日、小四の冬休みの終わりだったかなぁ」
その日公平は近所の公園で友達と待ち合わせをしていた。
お年玉で新しいゲームでも買いに行く予定だったのだが、待ち合わせ時間より早く公園に着いてしまい1人で待ちぼうけていたのだ。
「寒くてさ、誰も居ないし、来ないし、携帯もまだ持ってなくて、まぁ10分くらいだったからジッと突っ立ってたんだよな」
誰も居なかった公園にパタパタと足音がして、振り向くと二人連れがニコニコとしてブランコに乗り始めた。
1人は同じ年くらいで、もう1人はちょっと年上……年の離れた姉弟かと思った。
「俺が1人で寒がってんのによく遊べるなって見てたんだけど、その時留衣が『母』って芽衣さんの事呼んでさ、驚いたんだ」
親子かよっ!っとビビっていると、母はブランコの鎖で冷たくなった俺の手を擦り、俺を膝に抱えて二人乗りを始めた。
とても楽しそうで、寒空の中に喜ぶ声が響いて羨ましかった。
「特に留衣を見る芽衣さんの顔がキレイでさ、俺も一緒に遊んで欲しくて」
ボーッと眺めていると友達がやって来た。
そのまま友達と公園を離れたが二人の姿が焼き付いて、後ろ髪を引かれるという思いを初めて感じた。
「次の日留衣がクラスに現れた時はチャンスと思ったね。仲良くなれば芽衣さんに近付ける!」
「お前、それは単に母と遊びたかっただけなんじゃ……」
「一目惚れだよな!」
「いや、違う気がする」
「思ってた通り芽衣さんは優しいしキレイだし、留衣が羨ましいよ、芽衣さんと毎日一緒に居られるんだから」
「親子だからな」
「俺もここに住もうかな……留衣、俺を」
「帰れ。俺は母の世話だけで手一杯だ」
公平の台詞を遮り放り出された雑誌を手に取った。
確か転校初日にこいつは軽々しく話し掛けてきて、家にまで着いてきた。
越してきたばかりの俺には少し嬉しい事だったし、家に友達を連れてきたと母は喜んでくれた。
だが次第に母に対する公平の態度にイライラし始め「母にくっつくなよ」と言ったことがある。
すると
「だって、好きなんだ」
衝撃を受けた……好きってなんだ!?と突っ込んだ。
すると「親父と呼んでくれていいぞ、留衣」と返されて殴り飛ばした。
それでも公平は飽きることなく家に来るし、そして今に至る。
そんな公平を母は「留衣の友達だし、好感を持たれるのは悪くない」と笑っている。
楽観視しているように感じた。
そりゃそうだ、息子と同じ年なんだから。
「何?公平のアホ話?留衣、ジュースもらったよ」
ダイニングから麻琴が戻ってきた。
片手に盆を持ち、グラスが3つ乗っている。
ローテーブルに盆を置いてグラスを手渡されると思わず「ありがと」と礼を口にしてしまった。
……俺ん家だがな。