4月・自己紹介:2
俺は[父親]を知らない。
母にその存在について深く尋ねた事もない。
恐らく、聞けば答えてくれるだろうと思う。
5歳の頃、俺が一歳になるかならないかの時に離婚したのだと祖母から聞いた。
周りの子供たちが父親の話をする中で
「留衣くんのおとーさんは?」
と言われて[知らない][居ない]事に疑問をもらった。
「おとーさんってなに?」
3歳の俺がその疑問を告げた時、母は一瞬固まり、へらりと苦笑いをして
「おとーさんは遠くに行っちゃったからここに居ないんだよー、母が居るから淋しくないぞ!」
と明るく返してきたし、本当に淋しさなんてものは皆無だったから居ない事に違和感なんてものは感じなかった。
「お前ら、いつ帰るんだ?」
朝食の片付け、洗濯、軽い掃除をパッパと済ませ、自分の部屋で寛ぐために開け放しておいたドアから中を覗きつつ息を吐く。
公平と麻琴は当然のように俺の部屋で持ち込んだ雑誌やら携帯端末をいじっていた。
「えぇ……昼飯なに?」
「家にいてもつまんないんだもん、出来るだけ芽衣さんと同じ空間に居たいし」
「俺の部屋」
「芽衣さんの家でしょ、細かい事言わない!飲み物もらうわよ」
「俺、オムライス食べたい。芽衣さんの好物」
「あ、私も。留衣のオムライス美味しいよね」
───寛ぎすぎだろ。
携帯端末を手にダイニングに向かう麻琴を見送り、脱力して部屋に入る。
ベッドに転がり適当にページをめくる公平に呆れ顔を向け、自分は床に腰をおろした。
「公平、彼女とデートは?」
「今日はぁ、芽衣さんとぉ、デートの予定だったから入れてない」
無造作に雑誌を放り出し身体を伸ばして欠伸をかます。
あり得るはずのない予定のために放置されている彼女がムゴいと思う。
よくこんなヤツと付き合っているなと同情さえわいてくる。
「母のどこがいいんだか……」
ぼそりと呟いた本心に公平は身体を起こして反応した。