5月・麻琴の事情:11
麻琴が照れ臭そうに下を向いて母に礼を言う。
母は「ごめんね」と謝り、麻琴をぎゅっと抱きしめて返した。
真っ赤な目をした麻琴は首を振って応え
「へーき、明日は遊びに行けないかもだけど、また遊びに行っていい?」
「うん、おいで。もうちょっと辛いかもしれないけど、ママを手伝ってあげてね。またね」
「うん、また。おやすみなさい」
「おやすみ」───そう話して麻琴の家を後にして来た道を我が家へと向かう。
母が何時、何処で、どんな風に麻琴の事を知ったのか聞きたいけれど、聞けずに黙々と歩いた。
行きと同じで、母と二人っきりなのに帰りまで気まずい。
ウズウズとした感じで歩いているとふいに「留衣」と母が呟いた。
何かと顔を向けると「痛い」と左手を上げて見せてきた。
手の甲が赤く腫れ上がっていた。
「??!!」
父親の拳を受けて防いだ時の跡だろう。
目を潤ませて痛みを訴えてくる母に驚きを見せてその手を凝視する。
「ばっかじゃねぇの?!何で割って入ったんだよ!早く帰って湿布しなきゃ!」
「……足も痛い」
「!!!」
どうやら割れた陶器の破片を踏んだらしい。
幸い俺は足元を見ながら中に入ったからケガはなかったが、母はズカズカと入ってしまったので破片を踏んづけたようだ。
「……バカだろー」
俺の冷めた言葉に母は「うっ……うっ……」と呻き左手を擦った。
大きくため息を吐いて早足で帰宅し始める。
母は「うぅー……」とぼやきながらちょこちょこと爪先立ちで付いてきた。