11月・母親至上主義!:17
謝る俺に母は怒りの表情から拗ねるような顔に変わった。
「じゃ、あんたの知りたがってる[父親]について話すからよく聞きなさい」
ブスっ垂れた顔でボソボソと呟き、母は胸ぐらを掴んだまま大きく深呼吸をした。
「いい?あんたの[父親]は『ド変態の写真オタクバカ』なの!だから近づいちゃダメ!」
……うん、やっぱり?そうだと思った。
真剣な顔ではっきりきっぱりと言い切った母に俺は同意するように2度ほど頷き返した。
能見の部屋を見れば一目瞭然だ。
俺でさえ[母だらけ]に囲まれて過ごしたくはない。
いや、アルバムには保存しておきたいけど、曝していたくはないだけで……とにかく、ココは異常だ。
「酷い言われようだなぁ……ふふ」
能見が倒れる俺の隣に腰を落とし、母に向かって微笑んだ。
ああ、忘れかけてた。
確かに本人目の前にして[ド変態の写真オタクバカ]とは……よく言った。
「波留生?!」
「えへへ……芽衣ちゃん、久しぶりだね……よいしょっ!」
能見は俺に馬乗りの母を軽々と抱き抱えて立ち上がらせると、「はぁ……芽衣ちゃんだぁ……」とそのまま、ぎゅうぅぅっ!と抱き締めた。
「「!!」」
「逢いたかったよ、芽衣ちゃん」
「……はっ、はな、離せ!波留生!」
「嫌だよーせっかく逢えたんだから、もう離さない……」
「……っ?!」
能見はスンスンと母の匂いを嗅ぎながら口元に弧を描き冷めた目で母を見ていた。
〈怖っ!!〉
なんだこの人?!すげぇ怖い!!
「はる、……あんた、何でこんなとこに居るの?」
能見の腕の中で母は必死になって逃れようと足掻く。
抵抗されても尚、抱き締める腕を解くこともなく能見は喜びを露にして満面の笑みを作っていた。
「んー?僕、日本に帰って来たんだよ。芽衣ちゃんと過ごしたこの街に帰って来たら、絶対逢えるって思ってたんだよね。想いは通じるって本当だよねー」
「ジジィはどうした?まさか、一緒に……」
「師匠はたぶんフランスだよ。あの人がいると逢えないもんね。芽衣ちゃん、師匠の事嫌ってるし。だから、安心して僕と暮らそう?」
能見はニコニコとしてさらりと復縁を迫る言葉を告げる。