11月・母親至上主義!:14
自分を処理しきれないまま能見に連れられ、自宅だという2階に上がる。
〈男の手だな〉
掴まれる腕を見て、そこにある手を見ると母とは違う事を痛感する。
〈これが親父〉
その背中を見ながら足を動かす。
「ここはリビング、3階はスタッフの部屋とちょっとしたスタジオがあるよ」
能見の声に拓かれた場所を目に止める。
飛び込んできたのは階下にあったパネルよりも大きな母とふにゃふにゃな赤ん坊の俺の写真パネル。
「産まれて2日目の留衣と芽衣ちゃんだよ」
リビングだという部屋も白を基調とした簡素なもので、至る箇所に写真が飾られていた。
そのどれもに[母]が写っている。
巨大なパネルは1枚きりだけど、キャビネットやローボードの上、壁や柱など空いたスペースに整頓されて写真たてや小さめのパネルの中に[若い母]はいた。
「僕が持ってるのは全部21歳までの芽衣ちゃんだけだけど、綺麗でしょ?」
リビングを一望して目を見張る俺に、能見は「ふふふ」と嬉しそうに笑う。
「そして、こっち。僕の部屋」
能見はまたも腕を引っ張って壁にある扉に向かい、銀色のドアノブを回した。
開かれた扉の向こう側は、窓を除いて壁に大小飾られたパネル張りの[母だらけ]の部屋。
「!!」
「ふふふ……凄いでしょ。10代の芽衣ちゃんもいるよ」
正直、驚くなんてものじゃない。
制服姿や髪の短いもの、笑っているものや何かを眺めているもの、眠っているもの……俺を抱く母など、様々な母の写真で埋め尽くされている。
〈なんだこの部屋?!〉
「僕ね、ここに留衣の写真がほとんどなくて凄く悲しいんだ……」
そう語る能見に俺は唖然としていて言葉が出ない。
いや、逢ってから一言も喋っていないような気もするが、こんなの見せられて何が言える?!
部屋の中はベッドと低いタンスが2台あるだけだが、寝起きのままであろうベッドの側に積み上げられている本の山に気付いた。