11月・母親至上主義!:13
俺達は何を話せばいいのか解らずに黙りこくったまま、目の前に置かれたグラスを眺め、互いの顔を覗き見ていた。
俺が口を開かないのだから、公平と麻琴は何も言えないのだろう。
「僕の事、知っててくれてたんだね。嬉しいな……僕は最近知ったのに……芽衣ちゃんの居場所」
能見波留生は寂しげに顔を曇らせて、笑みを作った。
「さ、いきん?3年前じゃなくて?」
麻琴が問いかける。
はっ!として、慌てて下を向いて俺をチラ見してきた。
俺はどんな顔をしていいのか解らずに目だけを向けて麻琴を見たけど、別に咎める気は全くない。
「うん、僕ね、芽衣ちゃんの家族に嫌われてるから芽衣ちゃんの連絡先、全然教えてもらえないんだ。逢わせてもくれないしね。城崎と仕事すれば解るかなって城崎を指名してみたけど、アイツ口固くて……雅ちゃんが怖いんだろうけど」
能見も特に気にすることもなく、城崎の名前を苦々しく吐き出す。
能見波留生……光りの下で実際に会ってみるとやはり随分若く見える。
〈この人が父親〉
体格はそれほど大きくはないし、声も城崎と違ってそれほど低くはない。
赤茶色の髪は長く後ろに束ねていて、何処か日本人離れした顔立ちをしている。
〈この人が父親……?〉
何を話せばいいのだろう?
何を聞けばいいのだろう?
聞きたい事があるはずなのに言葉になって出てこない。
目の前のこの人に〈何をしに来たのだろう?〉
戸惑いと後悔。
俺は今、どんな顔をしているのだろう?
じっと向き合っていることに堪えられなくなって、事務所の中に目を走らせた。
この人の趣味だろうか殺風景で、観葉植物が1つあるが、壁に飾られた『lover´s』がやけに目立つ。
「僕ね、留衣に逢ったら見せようと思ってた物があるんだ」
能見は俺の戸惑いを感じたのか、ゆっくりと立ち上がりながら〈ふっ〉と緩やかに笑った。
「草太、お友達の相手してて」
軽くそう告げると俺の腕を掴んで引っ張り、焦る俺を引き連れて仮眠室の側の階段をスタスタと昇る。
「えっ?!……はぁい」
「「?!」」
デスクワークをしていた草太さんは驚いた後ため息を吐いて立ち、公平と麻琴は狼狽えて連れ去られる俺を見ていた。