11月・母親至上主義!:12
澄んだ中性的な声が俺の名前を告げる。
「留衣でしょ!」
助手席から降りてきたその人は勢いよくドアを閉めると俺達の所に駆け寄ってきて「留衣!」と公平と麻琴を跳ね避けて俺に抱きついてきた。
「「「?!」」」
「?!……能見?!」
俺のスマホから城崎がその人の名前を口にした。
赤茶色の長髪、俺とたいして変わらない身長のその人は、戸惑う俺達を放置し、俺の手にあるスマホに向かい、「城崎ー、留衣見付けたー!僕の事務所!芽衣ちゃんに報せてあげて」と声を掛けると返事も聞かずにさっさと
通話を終了させてにっこりと微笑んだ。
「車が入るから離れよっか」
車にライトアップされて、見慣れる写真の中の人懐こい顔が現れた。
これが……[父親]
事務所は然程広いとは言えないかもしれない。
事務用デスクが3つ、クリアボードの衝立を挟んで来客用ソファーセットが一揃え。
資料用キャビネットが壁に並び、その上には『lover´s』の大きなパネル。
「ここの奥が仮眠室で、2階から上が自宅だよ……ああ、この子はアシスタントの大福草太君」
「こんばんは」
二人掛けソファーに3人で詰めて座り、目の前で能見波留生が話すのを聞く。
急騰室からグラスに注いだジュースを盆に乗せて現れた若い男性が軽く会釈してきた。
モデルのように綺麗な顔立ちで、大きな黒縁眼鏡をかけている。
こちらもチョコンと頭を下げて返す。
「丁度、出版社で城崎と打ち合わせしてたら芽衣ちゃんから城崎に連絡がきてね、留衣と連絡が取れないって。今日はまだ試験中だから、帰りは早いはずなのにって焦ってたよ?おかげで僕は城崎に追い出されちゃったんだ」
柔らかい声と笑顔で事の次第を話してくる。
この人が、父親……か。