11月・母親至上主義!:9
公平はまだ残りの本を買えておらず、一人で2店舗ほど見て回ったようだがどの店でも[完売した]と言われたと嘆いていた。
『凄いな』と感心してしまう。
母にそれほど人気があったとは知らなかった。
とても嬉しい報告だ。
快晴で試験も終わった解放感を味わいつつ、徒歩圏内から少し離れた本屋にまで足を運んでみた。
普段行く店は全て回ったのだ。
仕入れている量は少ないだろうし、イラスト集がそれほど売れるという話しを聞いた事がない。
なので、母の本が完売していると聞くと素直に嬉しい。
「ここもか……ったく、なんで無いんだ?」
「出版数が少ないんじゃない?城崎さんに問い合わせてみたら?」
「おおっ!その手があった!」
「お前ら、城崎の事嫌ってなかった?」
「「今回は別!!」」
仲良いな。
「留衣、ヤツの連絡先!」
店舗のガラス窓の前で公平にスマホを取り出して城崎を表示させて見せると、それを奪ってまでかけ始める。
「留衣、あれ!」
突然、麻琴が車道を行き交う車を指差して声を発した。
俺と公平は反動でその先に目を向け、走り去ろうとする1台の車を見た。
その車は反対車線に路上駐車していて、赤茶色の髪をした人が乗り込むのを待ってから発車して行く。
顔は見えなかった。
ただ、車の屋根づたいに頭が見えただけだ。
人口数千人の街に赤茶色の髪をした人は何人いるのでしょう?
まして、[この街]に[住んでいる]と知ったばかりだ。
見間違いではないと思っても仕方ないだろ?
『おい!何なんだ?何か用か?』
公平が繋いだ俺のスマホから城崎の呆れた声が聞こえた。
「また後でかける!」
『なっ……えっ?公平っ?!』
俺の声でないのが解ったのか、城崎の驚く声は公平によって遮断されて切れた。