5月・麻琴の事情:5
3人掛けソファーがローテーブルを挟んで2列……母と雅ちゃんの向かいに公平、麻琴、俺……眉を寄せて疑問符を立てる雅ちゃんに誰もが目を向け静止した。
「「「はあぁぁぁ?!」」」
家中に響くほどの大声で驚きを見せた母と俺、公平に雅ちゃんは耳を塞ぎ、「だ、だって、麻琴ちゃんが芽衣の娘になるって言うからー」と狼狽え、「うるさいっ!」と母を睨み付けて抗議をする。
その言葉に俺と公平は真ん中に座って焦りを隠している麻琴を見た。
「麻琴!抜け駆けか?!」
「麻琴!お前がワケわからん事言うから!」
「芽衣さんは俺と結婚する予定なんだぞ!お前が娘になったらウルサイだけでイチャつけないだろ!」
「公平、お前は黙れ!母はお前と結婚なんかしない!」
「そうよ!芽衣さんは結婚なんかしないわよ!あんな面倒臭いもの、絶対しない!」
「いや、だからって麻琴、お前も娘にはならないぞ」
「なんでよ!私芽衣さんと居たいもの、娘になるしかずっと一緒に居る方法なんて思い付かないもの!」
「麻琴、娘になるってことは留衣と結婚するってことになるんじゃ……」
「バカ公平、冗談でしょ!男と結婚しなくったって養子になればいいんじゃない!留衣の義姉になるの!」
私の方が誕生日が早いから!と自信たっぷりに語る。
当然[開いた口が塞がらない]状態で言い合いは止まった。
愉快そうに観劇していた雅ちゃんの隣で母は不愉快そうに少し眉間にシワを作った。
何を考えているのか全く分からない。
どう考えれば[母の娘]になりたがる?
自分の親はどうした?
麻琴の家はウチより少し離れた場所にあるアパートだ。
両親と3人で暮らしている。
父親はサラリーマン、母親はパート勤めをしていると聞いている。
「麻琴ちゃん、もう遅いし送って行くよ。雅、先に風呂入ってていいよ」
静観していた母は、一通りの言葉に沈黙が訪れるのを待っていたかのように手にしていたアート雑誌をパンっとたたんで、ゆっくり立ち上がった。