表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マザコン!  作者: 束砂
1/113

4月・自己紹介:1



はざま留衣るい

この春、高校進学をする15歳(♂)。

俺の家族は母・芽衣めいだけ、つまり母子家庭である。


「自立するよ!」という母の一言で、それまで過ごしていた母の実家から離れた街に小四の頃に引っ越してきた。


ピンポーンと玄関のチャイムが鳴ると毎度ため息が出る……来客者が誰だか判っているからで、毎日ほぼ同じ時間にやって来る。


「おはよー芽衣さん!」


「……まだ寝てる、おはよ公平」


平岡ひらおか公平こうへい、越してきてからの友人だ。

何故だか公平は母を慕っている。

そして毎日[母に会うため]家に来る。


「なんだ、まだ寝てるのか。あ、俺今日はカフェオレにして」


小学生の時から公平はウチで朝食をとる。

それはいつ頃からか家事をこなしている俺のお手製で、母の為に作り始めた食事を当たり前のように公平は満足気に食べる。

見た目は可愛い方のイケメン……中学時代からコロコロと彼女が代わる、『女の子は皆友達』と言う優男だが「本命は芽衣さん」と隙あらば母にじゃれつく、俺にとって迷惑極まりない存在でもある。


母目当てと公言しているが俺自身が本気にしていないからか、気を使う事もない基本[良いヤツ]なので長く付き合えているのだと思う。



2LDKロフト付きの平屋の戸建て。

母の夢だったこの家に越してきた頃は母は頑張って家事をし、俺の世話をしつつ仕事をこなしていた。


だけどある日

「もー無理!留衣、何か作れる物作って!」

と泣きながら(泣き真似だったと思う)突っ伏した。


確か小五の夏だった。


この時作ったのは目玉焼きだったが、つぶれた黄身の半焦げの目玉焼きを母は美味しそうに食べた。

それからだ……喜ぶ母の顔が見たくて料理を覚え、仕事で引きこもる母の代わりに掃除、洗濯、買い出しets……今思うと謀られたのだろうけど、満面の笑顔で喜び褒めてくれる事が嬉しくて家事をするようになった。


そんな母は“ピンポーン”と2度目の呼鈴がなると部屋からノソノソと出て来る。


「おはよーございます。芽衣さん」


「……おはよ……麻琴ちゃん」


「おはよー、麻琴」


玄関を開ける前に勝手に開けて進入してくるこいつも小学生の頃からの友人安住(あずみ)麻琴まこと(♀)。


「今日もいい天気ですよ、芽衣さん」


「………………ん」


背中まである長い髪、黙ってれば可愛い麻琴は男嫌いで、俺には感心がないらしいが、こいつも何故か母になついていて毎日のようにウチに来る。

母はというと、寝起きの呆けた顔で出迎え、ボサボサの長い髪を整える事もなく「留衣、ご飯」と大あくびをかましてダイニングに向かう。

いつもの事だがため息を吐きながらも母の為に朝食をかまえてやる。


ついでにべったりと母の隣にすり寄っている麻琴の分も、だ。


これが俺のほぼ日常。

1日の始まり。


「芽衣さん、おはよー!」


ダイニングでは先に食べていた公平が母に飛び付きかかって挨拶をする。

素早く母との間に入り、その顔面を片手で阻止し、一睨みすると


「おはよ、公平くん。二人ともまだ学校じゃないよね?早いね、どーしたの?」


と、俺の後ろから母は何事もないように身体を伸ばして息を吐き、やっと目を覚ます。

そういえばまだ春休みのはずだが、この二人は長期休暇でも毎日のように朝からやって来るから気にはならない。


「芽衣さん、ここに絵の具ついてますよ」


麻琴が捲れたシャツから覗く母の腕を指してハニカムが、女に媚びても効かないのは当然だろう。

まして疎い母には皆無だ。


「ん、大丈夫。またすぐ付くから」


「あのさ、明日は入学式だし、芽衣さんと買い物にでも行きたいなぁと思ったんだけどダメ?」


「買い物?」


「そ、新しい文具とか、鞄とか……」


「男は男同士で行けば?芽衣さん、私の買い物に付き合ってもらえません?」


「麻琴は自分の親と行けば?俺と出掛けるってことは留衣だって付いてくるんだし(不本意だがな!)」


「残念、ウチの親は仕事よ!高校生にもなるのに母親と買い物なんてするわけないでしょ、ねぇ留衣?」


〈〈お前、邪魔!!〉〉


睨み会う二人を他所にさっさと俺はキッチン前のカウンターテーブルに母の為のホットサンドと珈琲を並べ、母はニコニコと笑顔で手を伸ばしてくる。


「いただきます」


「はい」


やはり母の笑顔は俺にとって嬉しい。

自然とこっちも笑顔になる。


「「留衣!?」」


揃った半怒鳴り声にこの一時を邪魔されなければ最も最良な時間なのに……。


「私無理よ。今日中に仕上げなきゃ明日の入学式に行けそうにないもん。ゴメンね二人とも」


「二人で行ってこいよ、俺はもう母と出掛けて準備済ませてるし」


申し訳なさげに頭を傾げる母に次いで呆れた声で返事を返すと、二人は俺の言葉に驚きと悔しさを見せたものの母の謝罪に項垂れた。

おかげで静かになった。


母のどこが良いのだろうか。

確かに童顔だが、所詮俺の母親だ。

年だって20歳も違うし、見た目にも可愛いというよりはキツいキレイ目。

絵描きという職にあって、殆ど引き込もっているし、性格は自由奔放[我が道を往く]を地でいく気ままな人だ。


まぁ、話さなきゃ子持ちには見えない。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ