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9話「初めて『好き』と言われました」




――レーア・カイテル視点――



私を天使と間違えた男爵様は、私に告白をし、母親と領民のことを託してまた眠りについた。


「オーベルト男爵は、お嬢様を天使と間違えていましたね」


「そうね」


オーベルト男爵を担いで保健室に運び、ベッドに寝かせた。


異性と二人きりになるわけにはいかないので、チェイも一緒にいる。


不意に目を覚まされたオーベルト男爵は、白いカーテンに囲まれたこの場所を、天国だと勘違いしたらしい。


その上、私を天使と呼んだ。


「チェイ、私、殿方に『天使』と言われたの初めてだわ」


「えっ? そうなのですか?」


「つり目に赤い髪なので、『魔女』とか『悪魔』とか言われたことはありますが」


「誰ですか? 

お嬢様にそんなことを言った愚か者は!」


「第一王子です」


「くそっ王子がっ! 

……お嬢様の前で汚い言葉を使ってしまいました。

申し訳ありません」


「いいのよ」


チェイが殿下を罵ってくれて、少しだけ溜飲が下がった。


「それから……殿方に『好き』と言われたのも初めてだわ」


「ええっ? 

ゴミ王子……もとい殿下からは『好き』と言われなかったのですか?」


「一度もないわ。

もともとあの方との婚約は家同士の結びつき。政略的なものですから、お互い恋愛感情などありませんでしたから」


それは三百年以上前の話。


当時は「エーダー王家」など存在せず、エーダー家は今は無いさる王国の王家に仕える公爵だった。


ある時、エーダー公爵は孤児を拾った。


エーダー公爵は、拾った孤児の潜在的身体能力の高さに目をつけ、手を尽くして高い教育を施した。


孤児だった少年は期待通りたくましく成長し、ついには魔王を倒すに至った。


エーダー公爵は悪政を敷いていた王家と王族を滅ぼし、新しく国を興し、その初代国王となった。


その末裔がエーダー王家であり、現在の第一王子がベルンハルト・エーダーだ。


そしてエーダー公爵に拾われた孤児の末裔が、私の家、カイテル公爵家だ。


魔王を倒した孤児は勇者と称えられ、エーダー国王からカイテルの姓と公爵の地位を与えられた。


私が第一王子の婚約者になったのも、危地に陥った際には殿下をお守りするため剣術や武術やロッククライミングの訓練を受けたのも、


勇者こと初代カイテル公爵が、自分の死後百年間、カイテル公爵家の子孫にエーダー王家を守らせることを誓ったためだ。


そういう誓いは自分の代でとどめて、子孫に残さないで欲しい。


しかし幸いなことに、初代国王と初代カイテル公爵の交わした約束は口約束。


カイテル公爵家を縛る、何らかのカタチをした契約の証はない。


しかも勇者の死後、もうとうに百年以上が経過している。


今までは義理で王家に仕えてきたが、公衆の面前で家同士の契約である婚約を勝手に破棄してくるような考えの足りない王子が王太子候補では……そろそろ王家を見限る頃合いね。


「チェイ、私守りたい人ができたわ」


「どういうことですか、お嬢様?」


「殿下に罵られている私の前に、ミハエル・オーベルト男爵が颯爽と現れたとき、胸がドキドキしましたの。

いまもオーベルト男爵の寝顔を見ているだけで、心臓がキュンキュンと音を立てているわ」


「それはつまり……」


「ミハエル・オーベルト男爵に恋をしてしまったみたい。

この年になって初めて恋を知るなんて恥ずかしいわ」


ほのかに頬を染める私を見て、チェイは驚いた顔をしていた。


「私も脳筋だった勇者の血を引いているのね。

助けられた人に恩を返し、一生をかけて一人の人に尽くしたいと思ってしまうのだから。

オーベルト男爵に受けた恩に報いるために、一生をかけてオーベルト男爵をお守りするわ」


「えっ? 

冗談ですよねお嬢様? 

この地味でださくてちっさい瓶底眼鏡男を愛してしまわれたのですか?!」


「チェイ、動揺しているのは分かるけど、歯に衣が着せられなくなっているわよ」


「し、…………失礼いたしました! 

ですがお嬢様、オーベルト男爵はその……ぶさ……あまり見目がよくありませんが」


「人間なんて皮を一枚剥げばみんな同じようなものよ。

王子殿下も顔だけは良かったけど、他は平均以下。

特に性格は最低だったじゃない。

殿下のおかげで私気づいたの、人間に大切なのは中身だって」


「確かに中身は大切ですが……」


「やっぱり! 

チェイもそう思うでしょう!」


第一王子は、生徒会の仕事の2/3と王子の仕事の3/4を、私がこなしていた事など知らない。


もうすぐ卒業するので生徒会の仕事はなくなりますが、第一王子としての仕事はどうなさるのかしら?


第一王子のテストの順位が毎回首席だったのも、教師がテストに出る問題と答えをそれとなく王子に教えていたからです。


さらに教師たちは、毎回成績上位者に圧力をかけ、わざと問題の解答を間違えて点を落とし、王子に首席を譲るように強要していた。


私も何度わざと解答を間違えたことか。


私が万年二位に甘んじていたのには、そんなウラの理由があったのです。


第一王子はこれからどうするのかしら? 


私との婚約を破棄したことを国王陛下が知ったら、きっとカンカンね。


謹慎で済めばいいけど……勘当? 

除籍? 

王位継承権の剥奪もあり得るわね。 


婚約を破棄された私には関係ありませんけど。


第一王子が王族から除籍されれば、王子は王族の仕事から解放されますし、国は王子のために無駄な税金を使わなくてすみますね。


「オーベルト男爵ったら、メガネをかけたまま寝てしまうなんて」


オーベルト男爵の瓶の底のような眼鏡を外すと、あどけない寝顔が見られた。


「可愛い」


オーベルト男爵の寝顔を見ていたら、幸せな気分になった。


「はぁ〜〜。

お嬢様も恋をすると、普通の女の子になってしまわれるのですね」


オーベルト男爵の寝顔を愛でている私の横で、チェイが深くため息を吐いた。




※伯爵令嬢のハンナと、レーアのお母さんのカイテル公爵夫人の話し方が同じになってしまいました。(^_^;)




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