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えぴろーぐ


 その後。

 随分と休んでいたが久しぶりにクラスに復帰した。

みんな何故休んで居たかは聞かなかった。──というより、既に一年が終わりかけているその頃には既に俺と彼らとはかなりの距離ができていたので、誰も気にかけなかった。

 まあその方が良い。まさか暴力団とか小説の話をするわけにはいかない。

 なっちゃんや先輩たちだけは、変わらずに俺に話しかけていた。




 それからは、怒濤の補習の日々だった。

比較的のんびり屋で通っている俺ではあるが、放課後は補習漬け、休みも補習漬けである。

朝早く起きて、朝練の奴等に混じって登校して自習まであった。忙しすぎる。

 ほとんどなっちゃんと遊ぶ暇もなかった。


 とはいっても、これは仕方がない。このままじゃ単位が足りない、と休校中も提出プリントが山積みだったのだが、さらに出席日数まで足りない、つまり卒業が危ういとのことで……

「今なら頑張れば卒業させてやる」という先生の有難い温情措置を受けることにした。

 受験勉強をしているやつらが居る中ではあるけれど、これもある意味受験勉強みたいなものだったし、俺もクラスメイトと同じ時期に卒業したかったから、補習くらいはやり通すつもりだ。

 母さんも、とりあえず卒業だけはしてくれと言っていたのでせめてそれだけはかなえておこうと思う。

いつ父とよりを戻すのかも、父が何をしているのかも俺は知らない。

 あのとき、もし事前になにか知っていたら……そう思うときがある。



 目まぐるしく学校で過ごす中、変化が少しだけあった。

久しぶりに戻った学校では、クラスメートが5人くらい、転校や入院していた。なにがあったんだろう。

 とりあえずここ数日、登校しても下駄箱に謎の紙が入ったりはしなくなった。



 別のクラスでも河辺を含め、不登校になったり、学校を辞めたやつが居たらしい。


 ただ、そんなことなど気にする様子もないかのように生徒たちは元気に振る舞っていて、すぐに気にならなくなってきた。

 学校で流行っている話題は『大人気少年漫画家の木瀬野さんが、暴力団と関わっていた』ことだった。

 地元だっただけに、かなりの反響を呼んだ。河辺の家の周辺も芋づる式に捜査されてるのでは、とこっそり言われている。実家がじつはでかいらしくて明らかに暴力団か何かだと地域では評判だったという話もあるが、俺は彼の家を尋ねたことがない。

 ただでさえ怪しい上に、更にアカウントの炎上(性格上、作家をしているとリアルの友人?にも自慢していたらしい)もあり、学校に居づらくなっての不登校だという。

間接的には俺の携帯があのとき壊れたからだ。

 木瀬野さんのことは結局、よくわからなかったが、暴力団との関わりの公表は、彼なりの良心だったようにも思えてならない。

 今その家の場所は売り地になっている。

 

 姉だが、河辺とよく一緒にいるのが目撃されただけでなく、俺の部屋やノートの情報を金銭と引き換えに売り渡していたことなどが明らかになった。

 病的なストーカーの河辺が家に入れない日などに部屋に頻繁に出入りしてはそういったものを渡していたらしい。これは河辺の使っていたSNSアカウントに出てきた会話にも『友達と一緒にネタを考えています』『お土産を持って来てくれました、感謝』『Tと遊園地』などと頻繁に取引していたと疑われる写真などが残されている。

 河辺に一度連絡したことがある。彼は謝りさえしなかったし、俺に恨みをぶつけもしなかった。ただ、ひたすら、よりを戻したい、と言って、更には「一緒に暮らすうちに彼女が家族の様に思えてしまい、罪に問いたくないがどうしたらいいか。 という身勝手過ぎる相談をされた。

 彼のことがわからない。

とりあえず、あれから姉は河辺と暮らして、戻って来なかった。

今から考えてみるとスパイだったと思う。



 アプリの偽なりすましアカウントなどを大量に取り締まった経験からするに、いきなり現れた鵜潮や緑のこと等も含めて、「身内からの信憑性の高い情報」が活用されていたこと、が関係していそうなのも姉に疑惑浮上するのは早かった。

彼と姉が共合して俺を追い詰める為にやっていた可能性が出てきた。


 暴力団を操るもとになる情報を売るスパイをしておきながら無罪とは思いたくない。

俺はむしろ、きちんと裁かれるべきだと考えて彼らを裁くための捜査に協力している。『事務所』によれば姉と河辺が俺を殺すつもりの計画があるらしい。


「過去に、同じことがあった」


最近の放課後、訳があってときどき訪れるようになった『事務所』でかいせさん、の恋人、色さんは言った。

「そのとき、妹を死なせてしまった。兄の妻の木村による、

兄を殺したくないという我儘で」


大事なカゾク、

兄妻らはそう言って、両親を洗脳させた上で、妹だけを責め立てるよう仕向けて孤立させた。

彼女は──


「けれど『兄の方』はスパイをした上に、妻と一緒に『計画的に妹を殺した』んだよ」


 大事なカゾク、カゾクの愛、そう言いながらかたや守られかたや殺されるなんて、家族が大事な人がやることとは思えない。


きみには、同じ道を辿らないでほしい。


「生まれ変わりがあるかはわからない。だが、遺伝子は、何代かに渡り繰り返し起きた刺激の情報が元となって次の世代に情報が受け継がれるという実験結果もある──」


あのときの悲劇をみんな望んでいない。わかるか。


「大丈夫ですよ。

俺は、姉を裁きたい」



『直さん』も、納得してくれるだろう。



 姉に同情なんてしない。

知る範囲では周りはみんな罰を受けている。木瀬野さんも名誉を失ってまで事実を公表した。

沢山の人や会社が巻き込まれた。

だから、尚更に、捕まって裁かれるべきだ思う。

 そして俺自身が生きていく、それがきっと、すべきことだ。



新しい道を探そう。

そして自分自身で羽ばたくのだ。







 春が過ぎた頃には、ひたすら勉強してどうにか単位を貰えた俺は、無事三年生になった。先生が言うにはこのまま行けば卒業出来るらしい。


「……これ、俺の進級祝いだよな?」


「そうだけど」


 なっちゃんの『秘密の部屋』

に通された俺は、お菓子とジュースによる飲み会、もそこそこに気付いたらベッドの上で後退りしていた。


「いやいやいやいやいやいや……」


 女装?姿で。

 なんで部屋中に女物の服がいっぱいあるんだよと聞いたところ、友達がくれたらしい。

最初は隠していたらしいのだが、

 学校の帰り道で、綺羅から聞いた色さんとかいせさんの女装話とかを聞かせていたところ、部屋に来ないかと誘われた。


「前に、最後までするって言っただろ? それ、すごくエロい」


「おかしいだろ、女装はっ! いや、いろいろと!」


足がスースーする……


「今でこそ女子が着てるけど、セーラー服って、もとは男性も着ていたし、似合うからヨシ!」


「えぇ……」


「嫌か?」


ぐっ、となっちゃんの顔が近付く。柔らかくて良いにおいがする。

う……。


「や、優しくしてぇッ!」

身を捩らせる俺。


「乙女」


小さく笑って近付いてきたなっちゃんの影が、俺と重なる。








「なっちゃんは、進路どうするの?」


「俺か? とりあえず、大学かなぁ。偏差値高いと選択肢増えるだろ。選択肢が多いに越したことはないしな」


「そうなんだ。俺は、とりあえず親のこととか、調べてみるよ。わからないものに恨まれて攻撃されてるなんて不気味だし、何か知っていたら未然に防げたことも多かったと思うから」


 義務教育と高校が終わると次第に進路は職業性や専門性が高くなっていく。無難に国語や数学や理科社会で渡っていけなくなる。

それが何を意味するのかが、薄々わかっていた。

「医者や製薬会社」とも「出版」とも「メディア」とも「社会」とも無縁になれはしない。

 何かを学ぶだけ、河辺の居る勢力、それ以外の勢力、会社に近くなる。職業性や専門性が高くなるということは、おそらく俺への圧力も強まっていくだろうし……

 医大の例をあげても、同時にその進路と共にある種の社会派閥に踏みいることになる。

それは裏社会とも切っても切れない。将来選択は、同時に派閥の選択。逃れられない。


 だから、高校生で既にそこに踏み入れてしまった俺は、もうこれから、なにも知らないままではいけない気がした。

 身を守りつつ、ある種の情報が手に入る場所── 親のことも知らない俺が生きていくにはそれしかない。

平凡に何かを選んだり望むことが出来なさそうなら、たった1つだけ、そちら側に居ることを選ぶ。


「色さんたちに──誘われてるんだ」

「事務所の?」

「うん、生まれ変わりを信じてる人も居て狙われるし……まだ安全とは言えないから。俺の体質調査も兼ねて」


 かいせさんや色さん、綺羅……京が居る事務所は、特殊な能力や体質を用いた調査を行っているところだという。

 生まれ変わりを疑われて、今もじつはしつこく狙われかねないでいる俺もまた、特別枠として置いて良いのではないかと色さんが言い出した。

──既に『こちら側』が見えてしまっているお前が、『みんなの居るあちら側』で普通に生きていくのは難しい。

俺と、関わる方が、未来を変えられるかもしれない。



 助けを求める声が聞こえたのは、かいせさんがサイコメトラーだから。色さんは、予知をしている。

 その体質や能力のために理不尽な疑われ方をして、理不尽に社会から追い出された彼らは『悪気のない』周りと馴染むことが出来なかった。


「俺も『悪気のない』周りよりも、もっと、悲しいことを理不尽なく悲しんだり出来る場所に居たいからさ」

「そっか」




 ベッドの上、今度は入れ替わって立場を逆転して居るとなっちゃんがふいに少し泣きそうな顔で笑った。


「な、に──」



「いや……事務所のこと、楽しそうに、話すんだなって思って」


「そう、かな、そうかも。俺、笑えるようになったよ」



俺は笑う。

笑う。

笑う。

 なっちゃんは起き上がると、俺を強く抱き締めた。




「──良かった」





《完》




10/1021:16

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