表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれのスキルは魂の自由  作者: 星村直樹
9/9

9 エルフのエアー弾

 カーラがボウの家にきて数週間。おれは、落ち込んでいた。蝋燭の火が消えない。消える気配さえない。ボウのところに、たまにミートパイを持ってはいくが、直ぐ帰った。


 カーラは、窓際の机に寝そべってボーっとしている。ボウは、書斎から本を持ってきて読んでいる。

 カーラは、ボウに連れられて薬師ギルドに登録した。現在、見よう見まねで、ボーションを作るまでになった。でも、リュウトが遊びに来ないので気合が入らない。


「カーラ、いつまでボーっとしているんだい。やっと、ギルドに納品できるようになったんだろ。ポーションをもっと作りなよ」

「うん…、リュートお兄ちゃん来ないね」

「じゃあこっちから会いに行くかい」

「お店に行っても、いないもん」

「ミートパイが食べれるさ」

「ボウは、心配じゃあないの」

「心配してどうにかなるもんじゃないだろ。放っときゃいいのさ」

「冷た過ぎ。ボウも会いたいくせに」


ドンドン、「こんちわー」


「お兄ちゃんだ」

「噂をすればだね」


「こんちわー、ベアーの方から来ました」

ズバン「今日こそ、蝋燭の灯を消すんだよね」

「ボウ!」

「いててて、急におなかが。はいこれ、ミートパイ。それじゃあ」

「待ちな、仕方がない子だね。ヒントを教えてあげるから、入んな。大サービスだからね」

「本当!」

「お腹は、もういいのかい」

「今な治った」

「調子いいね」


「カーラ、机を空けてやりな」

「うん」

「カーラは何してたんだ」

「ポーション作り。薬師ギルドの人に、よくできているって褒められたんだよ」

「天才だ」

「リュウトも覚えるかい。食いっぱぐれることがなくなるよ。手に職をつけな」

「冒険したいからやめとく」

「私が食べさせてあげるから大丈夫だよ」

「ありがとうな」

「なさけないねぇ」


 カーラが、蝋燭に火を点けた。


「風の糸もちょっとは見えるんだろ」

「ちょっとね」

「ものすごーく、ゆっくりやってあげるから、よく見るんだよ。まず空気を圧縮する」

「それはできる」

「次に、この空気の塊から一部をみょーんと伸ばす。これは、風の糸と同じものだよ。これを空気の塊に巻く。飛ばしたい方向の逆に穴を空けると」

 ズドン

「空気の塊が飛んで、蝋燭の炎が消える」

「ボウ、これってエルフのエアー弾だね」

「そうだね。そういや、カーラもやれるね。7歳でもできるんだ。だろ、リュウト」

「お、おう」


「いいかいもう一度やるよ。

 空気を圧縮して空気の塊を作る

 塊の一部をミョーンと伸ばして、それを空気の塊に巻く

 飛ばしたい方向の逆を解いて穴を空けると

 ズドン

 空気の塊が飛んで、蝋燭の炎が消える」


「そうか、空気の糸は、圧縮して作るのか」

「圧縮しようが空気だからね。流すことができる」

「解った気がするよ」

「今のを一瞬でやるんだ。空気の毛玉を厚くするほど遠くに飛ばせるよ。だから、空気の糸が一瞬で巻けるように何万回も練習するのさ。これを一度に6弾は作れないとね」

「頑張って、お兄ちゃん」

「今からハードルを上げないでよ」


「悪いけど練習は、外でやっておくれ。リュウトの空気玉は、私やカーラから見たら強すぎるんだ。ここで暴発したら、家の中がめちゃめちゃになる。さあさ、出てった出てった」

「そんな、試させてよ」

「だから、危ないって言ってるだろ」

「がんばってー」

 ズボンと扉を閉められた。

「こりゃ、河原で練習するしかないな」


「ボウ、蝋燭の灯を消すって、そんなに難しいの?」

「そんなわけないだろ。空気玉を作って、ちょっと圧力を加えたら、いい具合に破裂して蝋燭の灯ぐらい消せる。それを小難しく考えて。カーラが、空気の糸なんか見せるからだろ」

「私は、遊んでいただけだもん。ボウが折れて教えたんでしょ」

「難儀な性格だよ。リュウトは」

「お兄ちゃん、今度は、いつ来るの?」

「さー?。並大抵のことじゃないからね」




 いつもの河原にやってきた。サム達は道場が忙しくて、最近来ていない。一人で練習を始めた。

 おれは、空気がよく見えない。だから、空気玉を作るときも、見えるまで頑張る。それに力を使い過ぎて、空気玉が伸びるなんて、思いもしなかった。


「空気を圧縮圧縮。それをミョーンと伸ばす」

 ミョーン

「あっ、伸びる」

 ボワン

 空気玉が破裂した。

「これ、部屋の中だと危ないな。圧縮と流れをいっぺんにやらないといけないんだ。今のは全部伸ばしちゃったからな。もう一度」


「空気を圧縮圧縮」

 ミョーン

「巻けないことはないけど、一本だと、永遠と巻いてないといけないじゃないか。それに一本だけだと糸じゃあないし。二本を螺旋にして絡めて見るか」

 前世の知識で、これは簡単だった。螺旋状の糸は、遺伝子構造と同じだ。おれは前世で改造人間の実験体だった。こういうのはとてもイメージしやすい。


「だー、やっぱり糸1本じゃあ、らちが明かない」


 でも、ほかに手がないので、これを永遠とやる。

 20分かけて、やっと空気玉を全部巻けて空気の毛玉ができた。


「この一部を解いて穴を空ける」

 ボン

「うわー、爆発した。こりゃ、本当に危ない」


 最初は、空気の毛玉を永遠と巻いては暴発していた。


 それで、空気玉自体を螺旋にしちゃえば、一瞬で暴発玉ができるんじゃないかと気づいた。

 螺旋玉は、おれの予想通り暴発した。空気玉の中の螺旋流が強いほど威力が上がる。でも、これ、あたりまえだけど、飛んでくれない。それで、遠くで螺旋玉を作るようにした。もともと暴発が怖いので、手元では作っていなかった。それを自分が出したいところで出せるようになる。


「だーー、これ、飛ばないじゃん」(ゆっくり流すことはできるけど、それがナニ)


・・・初心に帰る


 初心に戻ってみて、腕が上がっていることに気づいた。空気の糸を1本ではなく無数に空気玉から出せるようになる。螺旋玉の修業は無駄ではなかった。これができるようになって、急にエアー弾が安定した。一部に穴を空けるのも、多数出現させた空気の糸の一つを消すだけでいい。後は巻き方をいろいろ試すだけになった。


 狙いがものすごく精密になったある日、ミートパイを持ってボウの家に向かった。あれから、2か月が経っていた。


「こんちわー、ベアーの方から来ました」


「ボウは、出ちゃダメ。私が出る」


ズボン「リュート兄ちゃん」

「カーラ、ミートパイ持ってきたぞ。ボウは、居る?」

「居るよ」


「今日こそ、蝋燭の灯を消しに来たんだろうね」


「あたり。蝋燭持参だよ」

 そう言って、机の上に蝋燭を6本立てた。

「1本でいいだろ」

「ボウが、一度に6弾作れって言ったんだろ」

「6弾作れるようになったの」


「やるよ」


ボッ

 6本のろうそくの灯りが、一度に消えた。


「すごい」

「今のは、エアー弾じゃないだろ」

「エアー弾だと時間がかかるんだ」

「いいから、やってみな」


 おれは、指2本を拳銃に見立てて、立て続けに6発撃った。


ボボボボボボッ


「すごいね。今のをやろうと思ったら、周りの空気を集めるだけじゃあ無理だ。リュウトは、空気を出せるようになったんだね」

「うん」

「指をあの形にするのが、やりやすいのかい」

「そうなんだ。指から、おなら?」

「ひどい表現だね。今日は祝いだ。夕飯を食べていきな。その後で次の段階だ。リュウトは水中で息ができるようになるよ」

「ありがとう」

「リュウト兄ちゃん」

 カーラが飛びついてきた。

「ハハハ、やったよ」

「すごかった。すごく速かった」

「ハハハ」

 なんだか泣けてきた。


 4月にエビデンス教会に行って、フリーだと言われてから4か月が経っていた。この2か月が、一番つらかった。


 食事中に次の目標が決まった。


「リュウトもこれで、アルテミスに行けるようになったね」

「まだ水中で息ができないよ」

「リュウト兄ちゃん、あそこに潜るの?」

「ああ、そのために、風魔法の修業をしてたんだ」

「私も行きたかったな」

「もしかして、カーラは、泳げないのかい」

「森育ちだもん」

「じゃあ、特訓だね。海水浴に行くだろ」

「…、怖いけど行く。お兄ちゃんは?」

「付き合うよ、っていうか、おれも修行だよ」

「大丈夫、鼻先や口元のほうが空気を出しやすいのよ。もともと、空気を吸う器官だからね。指のほうがよっぽど難しいのさ。水中で息ができるようになったら、カーラに泳ぎを教えておくれ」

「そうなんだ」

「やった」

「それでどうする。アルテミスに行くなら付き合うよ」

「私は?」

「泳げるようになってから言いな」

「神殿を見たいけど、ダメなんでしょ」

「私とリアのコンビでも、入り口を見ることしかできなかったんだ。まだまだ厳しいね。海露石の大きいのがありゃあ何とかなるんだが。リュウトは水魔法もいけるんだろ」

「生活魔法だけど、水を出せるよ」

「そりゃ有望だね」

「一つ聞きたいんだけど、速く泳ぐことができたら。モササを撒けるかな」

 モササは、ワニのような海中魔獣。アルテミス神殿付近を住処にしている。

「面白い発想だね。相当修業しなくっちゃいけないけど、できるかもしれないね」

「それって、「身体強化魔法」」

「身体強化魔法?」

「体を強化する魔法さ。私はできない。あれは、元々聖拳士の技だったんだ。だから、魔法使いは、覚えにくい技なのさ。リュウトは、魔法使いという枠にはとらわれていないから、やれるかもしれないね」

「身体強化って何属性?」

「水だね」

「やれそう。ボウ、教えてよ」

「さっき言っただろ、魔法使いは、体を鍛える技が苦手なんだ。私はできない。でも、できる子を紹介することはできるよ」

「本当!、紹介して」

「そうだね。エルフのエアー弾ができた褒美にするよ。その子は、王都にいるんだ。でも、修行するのに、1年ぐらいかかるんじゃないかねぇ」

「えー、やだ」

「カーラは、その間に泳げるようになりな」

「えー」

 身体強化魔法は、おれが、一番覚えたかった魔法だ。

「お願いします」

「やる気があってよろしい」


 次の目標が見つかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ