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おれのスキルは魂の自由  作者: 星村直樹
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8 丘の上のアトリエ

 カーラが、ボウのところにきて1週間が過ぎた。今日は、ボウが、カーラを連れて役所に行き、人頭税を払うと言っていた。その後、ベアーにきて、おれの親にもカーラを見せるという。たぶん二人とも、ミートパイが食べたいだけだ。二人とも、うまそうに食べるから、親父は間違いなく歓迎する。おれも、ランチを手伝って、二人を待つことにした。


 おれたちが住んでいる港町マーリンは、貿易で潤っている街だ。トルーマン家としたら、この流通税だけで、十分、領経営ができる。国は、領から、この流通税の上前を撥ねて国の経営をしている。キビツ国としたら、流通税だけで、国の経営は賄える。

 しかし、この世界は、うちのマーリンもそうだが、魔物の脅威にさらされている。魔物から、国民を守るために軍隊を強くする必要がある。しかし、流通税だと、王からしたら国民を守る義務がない。敵国から国土を守るとか攻めるのなら軍隊を動かすが、魔物相手だと、流通に支障がなかったら何もしない。だからと言って領に、軍管理を任せてしまったら軍閥ができて中央集権ができなくなってしまう。そこで、国民から税金を取って軍事費に充てている。人頭税を払うというのは、国民の義務であり、魔物から自分たちを守ってもらうための国のプール金でもあるのだ。

 ところが国は、何でもかんでも魔物から国民守ってくれるわけではない。ダンジョンから魔物があふれるのを監視殲滅するだけで予算はいっぱいいっぱいだ。それでも、このおかげで、各領の拠点となる町が壊滅するようなことはない。小事は、昔ながらのやり方、冒険者ギルドに依頼することになる。

 このように、人頭税とは、大きな町を中心とした税なので、田舎に行くほど徴収は緩くなる。今回ボウは、遠い親戚の姪を預かることになったと言って人頭税を払う。国がこれを認めるのは、さほど難しくない。


チロリン

「いらっしゃい」


「お兄ちゃん来たよ」

「おなかペコペコよ。リュウト、ミートパイをお願いするわ」


「誰この人?」

「ボウでしょ」


「まあボウさん、いらっしゃい。あなたがカーラちゃんね。かわいいわ」

ペコッ「カーラです。7歳です」

「えらいわ」

「ミズリーさん、いつものをお願いできるかしら。カーラも好きなんです」

 ボウのやつ、いつの間に、おれんちに来てたんだ。

「ミートパイにレモンジュースね。リュウト、ちゃんとレモンジュースを冷やしてあげるのよ」

「うえーい。それで誰、この人」

「だからボウでしょ」

「話し方が違う」

「これは、女の処世術だって。リュウト兄ちゃんも慣れたほうがいいよ」

 ボウは、上品な顔で、フンと笑って見せた。


 厨房に行くと親父がミートパイの大盛りをパイ焼き窯で焼いていた。来るのがわかっていたので、もう出来上がりそうだ。

「ボウさんは、上品な人なのに、ミートパイを美味しそうに食べてくれるんだ。嬉しいよなあ」

「良いお師匠さんにつけて良かったね。リュウト」

 なんか納得いかないけど、修正するのが、めちゃめちゃめんどくさそうなので、このままでいいか。


チロリン

「「「いらっしゃい」」」

「まあまあ、エマ様。いらっしゃい」

 また、面倒なのが来た。やべぇ、サリーさんに町を案内すると言ってたのにしてないや。


「お母さま、いつものをお願いします」

「お世話になります」

「お母さまだなんてもう。あんた、ミートパイ大盛り追加ね。今日は、リュウトもいますからレモンジュースが冷えますよ」

「じゃあ3つお願いします」


 エマたちも、いつの間にか常連になっていた。


 厨房を見ると親父が「エマ様も聖女になられるお方なのに、ミートパイを美味しそうに食べるんだこれが」と、テンションを上げていた。


「エマ様、今日は?」

 ちょっと、びくびくしているのが自分でもわかる。


「息抜きよ。聖女になって教会から出られなくなる私をお父様が自由にさせてくださっているのよ。それで、あの方たちは?。リュウトを予見すると、必ず後ろにいるの」


 聖女は鋭い。今日は、ボウたちを見に来たのだろう。

「ボウとカーラですか。ボウは、おれの魔法の師匠です。まだ生活魔法ですけど、最近風属性の魔法を覚えたんですよ」


「すごいな、それじゃあ4属性使えるようになったのか」


「生活魔法ですけど」


「それで、いつサリーに、街を案内してくれるの」


 こっちが本命か!

「きょ、今日です。ボウの姪のカーラは、この町にきて間もないんです。カーラも一緒でいいですか」


「いいわ」


 怖え~

「今、二人を呼んできますね」


「初めまして。ボウ・ワカ・マクナガルです」

ペコッ「カーラです。7歳です」


「かわいいわ」

「ワカ家とは、また古い家系ですな」


「サリー、ワカ家って?」

「キビツ王国の名家です。古い魔法使いの家系だと聞いています。でも・・・」

 サリーの二の句は、没落した家だった。理由は、本人も話さないし分からない。

「ワカ家の方が先生だったんですね。リュウトが魔法を覚えるのが早いはずです。リュウトをお願いします」


「大丈夫です。彼は、聖女様のお眼鏡に叶う働きをしてくれます」


 ボウがいつになくおれを持ち上げる。


「カーラちゃん、サリーよ。今日はよろしくね。リュウトさんに町を案内してもらうんだけど、カーラちゃんも一緒に町に行くでしょう」

「行く」

「それだったら、丘の上のアトリエに行ってみたらいいかもしれませんね」

「アトリエ?」

「港が一望できる喫茶店です。私もこの港町に来た時に、よく行っていました。いいところなのにすいているんです」

「そうなの?。おれ、行ったことないや」

「リュウトさん、行ってみたいです」

「お兄ちゃん、私も」

「よし行くか」

「リュウトは、カーラに甘いのね」

「そんなこと、あるか」

「「「ハハハハハハ」」」」


 この後すぐアトリエに行って、おれが感動した。港の奥に、アルテミスが見える。ボウたちが、アルテミスを目指した気持ちがよく分かった。

 それから、バザールに行って出店を冷かしたり、串焼きを食べたり、中央の噴水に行って、噴水にコインを投げたりした。


「後は、どこ行きたい」

「エマ様の、お忍び用の服が必要です。エマ様の体形は私と一緒なので、サイズで失敗することはありません」


 服屋に行って、女の買い物は長いと思い知らされた。でも、サリーと仲良くなったカーラがうれしそうなので良かった。あの歳で、母親と生き別れて、ずっと落ち込んでいた。今日は、いい日になった。

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