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おれのスキルは魂の自由  作者: 星村直樹
6/9

6 エルフ

 おれたちが住んでいるキビツ国には、階級制度がある。貴族は、魔法が使えるという理由で、選民されている。それなら、亜人のエルフは、人より魔力が強いので、尊敬されているかというと、そうはなっていない。エルフに子供を産ますと、魔法が使える子供を授かることができる。しかしそれは、男系でなくてはいけない。なので、人間は、エルフの男たちを皆殺しにする。そうは言っても、エルフの一般人でも、人の魔導士クラスの魔力がある。ただ、エルフは、長生きなせいか、人のように人口が増えない。国力とは、人口のことを指す。人は大挙してエルフを狩る。

 昔、エルフを狩りすぎて、今ではエルフを見ることは、とても珍しいことだ。もし、貴族の魔力の血が薄まると、その家は没落する。


 エマは、聖女になる方だ。魔力も強い。これを王家が狙わないわけはない。それで、王家がエマを狙っているという噂が広まった。でも、今晩は、そういう話じゃない。


 その夜うちの食堂で、エルフの女を魔の森で見たという話でもちきりになった。もしエルフの女に子供を産ませたら、その家は貴族になれる。一攫千金を狙う冒険者やなんやらで、話が盛り上がった。おれから言わせてもらったら、この話は、人間のほうが悪だ。草食で、穏やかなエルフを奴隷にしようというのだからいただけない。エルフの魔力は強い。どうせ、貴族が討伐隊を組んで、俺らは、その傭兵になるのが落ちだという話で、その夜は落ち着いた。


 翌日、おれは、いつもの河原に行くのに、みんなを誘った。

 風を吹かすところまではうまくいった。しかし、蝋燭の火が消えない。部屋の中だと、本当にしょぼい。かといって、魔法の練習を街中でやるわけにいかないので、いつもの河原に行くしかない。


「サム、薬草採取に行こう」

 河原に行く理由は、ギルドの薬草採取。

「ごめんな、今日は、傘の納品が大量にあるんだ。また今度な」


 アイルのところに行っても、今日は家を手伝うと言われた。おれの家もそうだが、たまに家が忙しくなることがある。仕方ないかと一人でヒール草を一束採取して河原に向かった。


 こういうだだっ広いところだと、部屋の中と違って、結構風が吹く。おれは、風を起こして、それに逆らってみたり、逆に後押しさせてものすごく速く走ってみた。極めつけは風の絨毯だ。これに乗ると、一瞬、まるで宙に浮いているみたいになる。結構楽しい。まるで風の精霊と遊んでいるみたいだ。


 気持ちいいな、このまま寝れないかな


 そう思って気を抜くと、バタンと地上に落ちてしまう。


 何とか気を抜いた状態で、ずっと風の絨毯を起こせないかと、そこに座り込んで川の流れをぼーっと見た。

 そこに子供が飛びついてきておれの服をぎゅっと握った。


「お兄ちゃん助けて」

 よく見ると、耳がとがっている。

 エルフか!

「おれ、人間だぞ。怖くないのか」

「風の精霊と遊んでいる人に、悪い人はいないってお母さんが言ってた。助けて、魔獣に追いかけられているうちに、お母さんとはぐれたの」

「お前、どこから来たんだ」

「あっち」

 魔の森を指さされた。

「いつ、お母さんとはぐれた」

「ヒックヒック、昨日」

「泣くな。名前は?」

「カトリーナ・クレオラ・ローレンス」(北風の月桂樹を宿したカトリーナの意)

「長い」

「お母さんは、カーラって呼んでた」

「ごめんな、いろいろ聞いて。おれはリュウトだ。とにかくこれで、頭を覆え。耳が尖っているのが見つかるとやばい」

 ベアー特性の布を渡して、姉さんかぶりをさせた。これなら、耳まで隠れる。

「カーラは、何歳だ」

「なな才」

 この子をおれの家に連れ帰るわけにはいかない。周りは、エルフを狙っている敵だらけだ。そこで、カーラを守りきることはできない。

やっぱり、ボウのところに連れていくしかない。ボウは女だし、魔法以外に、エルフに興味はないはずだ。それにあんなんだが、結構面倒見がいい。

「カーラ、おれの背中に乗れ。小さい子が、こんなところにいるのは珍しいからな」

「うん」

 おれは、スミネ川沿いに走った。そこから、町側の支流に入るとボウの水車小屋がある。

 カーラは、昨日、母親とはぐれたといっていた。

「カーラ、腹は減ってないか」

「おなか減った」

「悪いけど。背中に乗ったまま食べろ」

 そう言って、お昼のミートパイを渡した。

「どうだ?」

「おいしい」

 エルフって、草食じゃあなかったっけ。でも、ボウと同じミートパイが好きなら気が合うか。


 やっと水車小屋が見えた。カーラを下ろして扉をたたいた。

ドンドン「ボウ、開けてくれ」


「・・・やだね。友達と違う気配がする」


「ミートパイがあるんだけど」

ズバン「それを早く言いな」

「入れてくれよ」

「いいけど、その子は何だい」

 カーラは、ボウの勢いを怖がって、おれの服をぎゅっと握っている。

「カーラ、布を外して」

 バタン、ボウが慌てて、おれたちを部屋に入れて扉を閉めた。

「エルフじゃあないか。なんてもんを連れてくるんだ」

「迷子だよ。母親と魔の森で、はぐれたっていうんだ。おれじゃあ魔の森に入るのは力不足だ。ここに来るしかなかったんだよ」

「領主に突き出してもいいけど、後味が悪いね」

「エルフは、大きくなると魔力が上がるよ」

「そうか、私の研究を手伝わせればいいのか」

「ボウ、子供の前で、心の声が駄々洩れなんだけど」

「よし分かった。この子を保護するよ。なんて名だい」

「カーラ」

「それにしても、耳が邪魔だね」

 カーラが、おれの後ろに隠れた。

「なにも、取って食おうっていうんじゃないよ。変身薬はあるんだ。でもね、耳だけとなると材料が足りない。それも、面倒だから永遠にそうしようと思ったら、結構高くつよ。こうしちゃあいられない」

「どこか行くの」

「ああ、その子のために薬の材料を買いにね。カーラは、リュウトが連れてきたんだ。私が帰るまで、面倒を見な」

「わかった」

 ボウが出ていくと、カーラが、そこに座り込んだ。

「ごめんな。おれは、まだ、魔の森には入れない。カーラのお母さんを探せない。カーラは、人の世界にまぎれて生きるしかないんだ」

「エッエッ」

 カーラは、頷きながら泣き出した。


 おれは、ボウの家を始めてのんびり見回した。いつもは、ボウの剣幕で、そんな余裕はなかった。ここは、暖炉がある部屋だ。暖炉の上には、よくわからないものが並べてある。その反対の大きな棚には、保存食やら日用品やらがきれいに並べられていた。窓際の机の上には、今研究している資料が散乱している。奥の部屋は書庫で、たぶん貴重な本がぎっしりと入っている。水車のほうは、何かを引いているみたいで、ガラガラ音がしていた。


 何研究しているんだろ。触らないけど、見えるところは見ていいよね


 資料を見ると、ドラゴンの資料だった。ドラゴンは、ワイバーンのような竜と違い、魔法生物だ。ボウらしい研究だと思った。


「お兄ちゃん、お水飲みたい」

「もういいのか」

「泣き疲れちゃった」

 厨房に水瓶がある。柄杓で、陶器の椀に水を汲んでやった。考えてみたら、昨日から、水も飲んでいなかったのだと思う。


 そこからは、手持ちぶさたになった。することがない。カーラは、そこにへたり込んで、手遊びを始めた。手の平を合わせ鏡のようにして、その中に何か作っている。ちょっとキラッとしたものが見えた。


「何をしているんだ?」

「風の糸を編んでるの」

「風の糸って?」

「風をみゅーんって伸ばして、お人形さんを作るの」

「フーン、何作ってるんだ」

「お馬さん」

「全然見えないや。あっ、でも、ちょっとだけ、キラッとしているのはわかる」

「お兄ちゃん、風の精霊と遊んでいたのに、見えないの」

「風で遊んではいたけど、精霊は見えてないな」

「風の絨毯に乗ってたのに、変なの」

「カーラも乗れるのか」

「うん」

 おれは乗れるけど、サムもアイルも乗れなかった。その原因がちょっとわかった気がした。それにしても暇なので、ボウの資料を片付けて、机の上に蝋燭を置いた。懸案の灯を消す練習を始めた。

 室内だと、やっぱり蝋燭の火が傾くだけで消えない。


「リュウト兄ちゃん。風を集める練習?」

「いや、火を消したいんだけど、傾くだけで消えないんだ。カーラは消せるのか」

「消せるよ。その前に、風を集める練習をしないと無理だよ」

 えー、7歳でもできるんだ。エルフスゲー

「ちょっと消して見せてくれよ」

「うん」

 カーラが、指をろうそくの炎に向けると、指先で、何かキラッと光った。次の瞬間、蝋燭の炎は消えていた。

「すごいな」

「もっと大きな火でも、エルフボウで打つと消えるよ」

「エルフボウって?」

「弓を風で編むの」

「馬みたいに」

「そう。でも、エルフアロウは、できない。先っちょを尖らせられないの」

「おれなんか、見ることすらできないんだけど」

「だから、最初は、風を集める練習だよ」

「やって見せてくれ」

「うん」

 カーラが集中すると、蠟燭の炎が大きくなった。空気が全方向から集まっている証拠だ。そういえばボウに、「これ、空気の流れだけで消えるの?」と、聞くと「無理だろうね。空気を圧縮することができたら違うかもね」と、言っていた。風を集めるということは、空気を圧縮することだ。何かコツをつかんだ気がする。


「わかった。風を蝋燭の炎に集めればいいんだな」

「がんばって」


 それから蝋燭を3本も使って炎を大きくして見せた。なんとなく圧縮のコツをつかむ。


「カーラ、蝋燭を3本も使ったのは、内緒な」

 この世界の蝋燭は、高級品だ。庶民は、ちょっと匂う獣の油、獣油を使う。


 そんなことをしていたらボウが帰ってきた。


「ホーホホホホホ。美人は得だね。ちょっと、いい顔すりゃあ、半額だって。馬鹿だよ、あいつら」


 みんな、だまされてる。


「しまった。カーラの寝床を確保しないとね。屋根裏部屋は散らかっているんだよ。二人とも片付けを手伝いな」


 そこからは、忙しくなり、夕飯をボウのところでとることになった。翌日も、屋根裏部屋を片づけをすると約束して家路についた。おれは、カーラがボウの家になじむまで通った。

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