5 風魔法
「ボウ、今日は、ミートパイてんこ盛りだよ」
エマのおかげで、おやじの機嫌がすこぶるよかった。
「そんなに、食え‥るよ。冷えてもおいしいからね」
さすがパイ好き。
「それで、ビー玉は、動いたんだろうね」
「見てよ」
おれは手を振って、ビー玉を動かして見せた。
「やったね。でも、いちいち手を動かすんじゃないよ。それは、詠唱しているのと同じだよ。変な癖をつけると、後々面倒だ。手を振らないでやってみな」
「どうやって」
「イメージだよイメージ。ビー玉が、流れればいいんだよ」
「そうだった」
今度は、難なくボウの言う通りにビー玉が動いた。
「後、こんなのは」
そう言って手のひらをビー玉に向けて引き上げる仕草をした。
コトッ
「へーへへへへへ、浮いたね。すごいじゃないか」
「ボウは、もっとすごいだろ」
ボウは、魔法以外にも、知識は重要だと言って、いろいろ教えてくれた。それで、帰るのが遅くなるたびに夕飯を作ってくれた。二人で夕飯を食べているときに、ボウ側にあったソースを取ってくれっていうと、手でやらないで、必ず浮かせて、こちら側に持ってきてくれる。なんでそんな面倒なことをやるのと聞くと、何事も練習さねと答えた。ボウの場合は、魔法と生活が融合している。
「それじゃあ、次に行くよ。今度は、この垂らした紙を扇いでみな。出来たら、ろうそくの灯を消すんだ。絶対、室内でやるんだよ。いいね」
紙は、すぐ揺らすことができた。つまり、風を起こすことができた。でも蠟燭の火は傾くだけで消えない。
「へーへへへへへ、消えないね」
「これ、空気の流れだけで消えるの?」
「無理だろうね。空気を圧縮することができたら違うかもね。まあ、がんばんな」
とにかく、風を起こすことができた。これは、大いなる一歩だ。おれは、やっと成果が出たと両親に自慢した。
室内だと、垂らした紙を揺らす程度だったが、外でやると、前世でいうと、扇風機を回したような風になる。風の生活魔法が確実に身についていた。これを母さんが、アイルとサムに自慢した。アイルとサムは、おれの風魔法を見せろと、いつもの河原で詰め寄った。
「剣術の練習に来たんじゃないのかよ」
「オレたちは、魔法のほうはさっぱりだろ」
「ダチが、どんな魔法を使えるようになったか知りたいじゃないか」
「生活魔法だよ」
「いいから」
「見せろ」
「絶対笑うなよ」
そこで二人に向かって風を吹かした。外なので、結構な風量がある。
「「すごいな」」
「あっ、室内だとこれぐらいかな」
ふっと吹いた。
「でも、窓を開けていたら、これぐらいか」
フー
「生活魔法だな」
「うん。生活魔法だ」
「だから、生活魔法だって言っただろ。くそーとっておきを見せてやる」
そういって風の絨毯を作った。それに飛び乗ると、ちょっとだけ浮いていられる。
「すごいじゃん」
「オレも」
二人が絨毯に飛び乗ってもすり抜けるだけ。
バタン!
「イテッ」
「イテテテ」
「ごめんな、なんでか、おれしか乗れないんだ」
親父も母さんも試したけど、尻もちをついている。
「不思議だな。でも、今まで使えなかった属性魔法が使えるようになったんだろ。何か風魔法について聞いたら教えるよ」
「風ならオレらにも当たるだろ。風で背中を押してくれよ。早く走れるんじゃないか」
「アイルにしちゃあ良いことをいう」
「偶に当たるよな」
「偶には、酷いだろ」
それで、おれら三人の背中を風で後押ししてみた。
すげー、おれ、天才じゃないか
三人ともすごく走るのが早くなった。
二人は、剣術道場で、師範代と、その仲間の傭兵上がりの連中にいじられていた。そろそろ反撃するとサムが言ってきた。リベンジの日は近い。リベンジはいいけど、二人に突き技は、危ないので教えていない。ただ、この世界の剣は、脆いので突き主体になる。向こうは、何を考えているかわからない。そこで、突きを避ける練習だけはしっかりやった。突きを避けられるということは、突けるということだ。後は、二人に任そうと思う。
突き技などなくても、二人は、すり足がうまい。相手は、サムたちが、急に前に出てきたり引いたように見える。二人だと、相手の先を簡単に取れるだろう。