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おれのスキルは魂の自由  作者: 星村直樹
2/9

2 冒険者

 キビツ国のトルーマン領は、貿易で栄えている領だ。領主様は、フレデリック・ジェームズ・トルーマン様。キビツ国に3人しかいない侯爵様の一人だ。マーリンの町は、貿易の珍しい品であふれている。その中でも一番珍しいのは、港町マーリンの沖合にある海中遺跡のサルベージ品だ。きれいなガラス器が一番人気だが、たまに、魔石や魔道具がサルベージされることがある。

 海中遺跡アルテミスは、高度な魔法文明を持っていたのに海中に没した。そこには、一攫千金を狙うサルべージャーが集まる。

うちにも、サルベージされた魔道具がある。着火魔具で、大して高いものではないけど重宝している。


 この世界には魔法があり、レベルというシステムがある。レベルは、魔獣などを倒したときに、その魂が、経験値となって自分に宿る。子供の時に小動物を狩って、経験値を得ることはあるが、経験値を大幅に稼ぐことは難しい。だけど死の危険はあるが、魔獣を狩ると、一挙に経験値があがる。魔獣狩りは大人、つまり、15歳になってから許される。そうでないと死亡率が極端に上がる。それでも、小動物を狩っているとレベル7とか8ぐらいになる。

 しかし、おれのレベルは3しかない。なぜなら、転生なのに、肺に気のうがついているからだ。これのおかげで、レベル3で、大人のレベル20ぐらいのステータスがある。

 この国は、亜人差別がひどい。まだ、魔獣を倒していない状態で人とかけ離れていると、亜人ではないかと疑われる。そうすると、とても生きにくくなるし両親に迷惑をかけることになる。今まで、自力をあげることばかりしていたが、15歳になった。これで、やりたいことができるようになった。


「母さん、行ってくる」

「常連さんがいたら、声をかけてね」


 今日は、冒険者ギルドに行って登録をする。


「リュウト遅いぞ」

「おまえら、冒険者は、関係ないだろ。サムは、剣士だから分かるけど、アイルは床屋だろ」

「副業だよ。冒険者は、副業が許されているんだ」

「サム、道場は?」

「道場の奴ら、アイルより弱いんだ」

「おれらが、強よすぎんだよ」

「上の奴らが嫌な連中なんだ。今度、ぶったたいてやろうと思っているんだ」

「リュウトも来いよ」

「向こうはレベルが高いだけ。力押ししているだけなんだ。あれは、剣術とはいえない」


 この世界の剣術は、突き主体。日本刀のような刀がないので、斬撃技が少ない。おれたちは、子供の頃から、チャンバラをして遊んでいた。

 おれは、前世で剣術道場に通っていた。それを思い出すために遊んでいたのだけど、ついでに、サムとアイルも強くなっていた。


「分かった、助っ人に行くよ。どうでもいいけど、本当についてくるのか。友達同伴って、かなり恥ずかしいんだけど」

「だから、オレらも登録するって」

「ジェシカ姉さんに会いたいし」

「そっちか」

 サムは、ギルドの受付嬢のジェシカに岡惚れしている。ジェシカは、おれの家の斜迎えの防具屋の娘だ。5歳上で、小さい頃は、よく遊んでもらった。

「5歳も上なのに」

「年は関係ないだろ」


 友達と、わいわいやりながらギルドに来てしまった。ギルドに入ると、そこは、酒場で、奥が受け付け。強面の人がいっぱいいた。昼間っから、酒を飲んでいる。


「おめぇ、ベアーっとこのリュウトじゃないか。今日は何だ」

「おれ、教会で、冒険者って言われたんだ」

「後ろにいるのは、悪ガキの2人だろ」

「おれらも成人だよ」

「オレも、登録しに来たんだ」

「いいんじゃねえか、やれやれ」

「ジェイドが、ごめんね。分からないことがあったら教えてあげる」

「リアたち、今日は泊まりに来る?」

「一仕事終わったしね。ジェイドはどうする」

「どうするって、まだ飲み出したばっかだからな。ベアーに、夕方、お湯を準備してくれって言ってくれ」

「アランは?」

「ちょっと調べ物をしてからかな。今日は、ハープで語るよ」

 アランは、元吟遊詩人。

「本当、やった」

「私も夕方かな。こんな感じ」

「まいどー」


 受付に向かいながら、サムがこそこそ聞いてきた。

「ジェイドって、剣士か」

「タンクだよ。あのパーティの剣士は、アルバートって人」

「かっこいいか」

「アルバートは、シュッとした人だけど。なんだよ」

「剣士の冒険者もいいかなって、思っただけ」

「床屋の冒険者もいるのか」

「今日、アイルがなるんだろ」

「そうだった」


 港町マーリンは、トルーマン領の都で、大きな町だ。ギルドの受付は、多い時で、5人も並ぶ。でも、行くところは決まってる。


「ジェシカ姉、来たよ」

「あら、サム君とアイル君も来たのね」

「普通」

「オレたちも登録する」

「いいわよ。うちは、副業OKだから。でも、まったく仕事をしなかったら、ギルドカード剝奪ですからね」

「どれぐらい?」

「3か月何もしなかったらよ。そうね、1ヶ月に1回ぐらい薬草採取していれば大丈夫よ。どうする」

「やる、ちゃんとやる」

「オレも」

「じゃあ、3人とも、ギルド入会書にサインして。それから、仕事の説明をするわ」


 ジェシカ姉もおれ達も、町のミナミ塾出身だ。全員読み書きそろばんができる。学のほうは問題ない。


「いいわ。それじゃあ、ギルド証ができるまで、ギルドについて説明するね」


 冒険者ギルドは、キビツ国だけじゃあなく他国の冒険者ギルドとも連携している。ギルドランクが、Cになれば、ギルド証だけで、他国にフリーパスで行ける。ギルドランクは、Fから始まりAまである。Aの上にSランクがあるが、これは国が管理している。Sランクになると、国の代表になってしまうので、実質Aランクが、自由に各国を渡り歩ける冒険者となる。

 Fランクは、一つ上のEランクまで仕事を受けることができる。でも、魔の森に入れるようになるのは、Eランクから。


「Eランク以上のパーティに参加させてもらうんだったら仕事内容によるけど、魔の森に入れるわ。でも、Fランク同士でいくらパーティを組んでも、魔の森に入る仕事は斡旋できませんからね」


「手前の雑木林ならいいんだろ」

「人が住んでいるぐらいだからね。あなたたちも小さいときに、雑木林の人に保護されて、一晩帰ってこなかったもんね」

「子供の頃の話はやめろよ」

「あら、まだ、ひよっこでしょう。悪ガキ三人組」

「ジェシカさん、タグとギルド証」

「あら、残念。一人前になっちゃったわね。はいこれ。無くさないでね。無くしたら再発行に金貨1枚ですからね」

「「「やった!!」」」

「ドックタグは、あなたたちの認識票よ。あなたたちが亡くなったときに、誰が誰だかわかるようにするためよ。ギルド証は、あなたたちのランクを証明してくれるカードよ。これは、銀行カードにもなっているから無くさないでね」

 ギルドの仕事に傭兵というのがある。国に雇われて、戦争に行くこともあるのだ。

「仕事は、あそこの掲示板に張り出しているから、受付に持ってきて。常駐クエストは、直接受け付けにきていいわ。常駐だと期限がないから、最初は、これを受けるのがおすすめね」

「どんなのがあるんだ」

「町の清掃か薬草採取よ。町の清掃は、銅貨5枚。薬草採取は、ヒール草がメインで、一束銅貨1枚よ。採取は、他にも毒草やハーブがあって、これだけで生活しているFランク冒険者もいるのよ。どうする?」

 一束とは、ヒール草5本。

「「薬草採取がいい」」

「そうなの」

 冒険者になってまで、町の清掃なんかやってられるか。

「あら、安い仕事をとるのね。これがヒール草よ。採取するときは、根っこまで抜かないで茎からとるのよ。鮮度を落とさないよう濡れた布で茎を巻いてね。それと、繁殖ってほどじゃあないけど採取ポイントを地図にしたわ。私の登録祝いよ。がんばってね」

「ありがと」

「頑張るよ」

「オレも」

 ジェシカは、ヒール草の実物と地図まで用意してくれていた。一生懸命やらないわけにはいかない。


 おれたちは、意気揚々と初仕事に向かった。ギルドを出るとき、またジェイドたちに声をかけられた。

「お前ら、がんばれよ」

「懐かしいわ」

「おう」

「頑張る」

 おれたちは、いっぱしの冒険者になった気分になった。


 マーリンは、南側が海。北北西側は、丘陵地帯の草原になっていて、小動物はいるが、危険は、さほどないところだ。子供のころは、ここが遊び場になていた。でも、雑木林に入ると、ホレストボアやブラックスネイクが、魔の森から出てくることがあって危険だ。なので、子供のころは、草原より奥に行ってはいけないと親にさんざん言われていた。


「採取ポイントは、スミネ川近くの湿地帯か。早く行って採取して、その奥の河原で遊ぼうぜ」

「何言っているんだアイル。今日は、いっぱい採取してうまいもん食おうぜ」

「それいいな」

「おいおい、うまいもんだと、5束は、いるぞ」

「おれ、本業にするんだから、それぐらいやりたいんだよ」

「付き合いますか」

「だね」


 ジェシカが教えてくれた場所は、ヒール草の隠れた繁殖地だった。しばらく食っていけそうだ。

「すげえ」

「ジェシカ様々だ」

「これなら、河原に行けるか」


 湿地帯の奥に行くと広い河原に出る。ここで体を鍛えたり、我流だけど3人で剣術の稽古ををしていた。


「剣術道場のやつがひどいって言ってたな」

「ああ、やってやる」

「あいつら、手ばっか殴ってくるんだ」

「それなら、いっこ案があるんだけど、練習するか」

「やるやる」


「サム、おれの手を狙ってくれ」

「こうか」

「それを、こう返して、そのまま面を打つ」

 小手返し面。今まで、返し技を二人に教えていなかった。それでも勝手にいろいろやっていたが、これはできていなかった。

「そんなちょっとの動きで返せるんだ」

「やってやる」

 二人ともすり足はできているが、構は我流だ。

「待て待て、最初は、中段に構えるんだ。これだと、受けも攻撃もできるから」

 上段は攻撃主体。下段は、待ち主体。サムは、さすが剣士職、上段が得意だ。アイルは、背が低い。それでか下段が得意だ。下段に構えられると腕とか足とか関節とか狙ってくるから、危なくて仕方ない。だいたい上段や下段に構えられると小手が狙いにくい。

「中段、基本だから。じゃあないと練習にならないだろ」

 おれたちは、ベアー特性の体拭きをねじり鉢巻きにして兜の代わりにしている。顔をケガすると親に怒られる。おかげで、手加減もうまくなった。

「誰もまねできないぐらいうまくなってから連中をやってやろうぜ」

「レベル上げをしないのか」

「おれたちなら、レベル上げをしなくても勝てるだろ。腕の違いをいやというほどわからせてやる」

「よっぱど、ぼこぼこにされたんだな」

「ああ、防具があっても痛いものは痛い」

「あいつらのは、タダの力押しだ」

「リュウトも、やるときは見学で入ってくれよ。3対3の団体戦をやりたいんだ」

「わかった」

「じゃあ練習の続きな」


 おれはレベル3しかない。サム達ですらレベル8ある。それでも、おれは、大人ぐらいの体力がある。肺がヘンテコなせいか背が高くてひょろっとしているが丈夫に育った。ほとんどの大人はレベル15以上ある。相手は、傭兵をやっていた奴らでレベル20越え。サム達は本気だ。

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