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『魔王塔、屋上。裏切る者』

「……えっと」


なんか色々と混乱してきた。


皇子の立場で整理してみるか?


まず老司教の手紙だ。


皇子は自分が裏切られて孤立する事を予想した老司教が、あの手紙を渡したと考えている。


それは、誰の考え、誰の指示か?


当然、老司教の主人である魔王様だろう。


つまり裏切られた後の皇子に、オレは利用価値を認めているというわけでもある。


そして今、窮地に立たされた皇子は、用意されていた取引に乗る気になり、オレが彼に何を望むかと問いかけている。


という認識で間違いないかな?


多分そうだ。


……あれ?


それだと最初は無事に皇子たちを返そうとしたっていう、さっきのシンルゥの口から出まかせ的な説明と矛盾しない? 


生還するのを見過ごしていたら、こういう取引の場は持てなかったはずだが大丈夫?


「魔王様。私が命を救われたのも、皇子を助けて頂いたのも、裏切り者たちの計画がうまくいったと思わせる為に敗北を演じたのも……実は全て計算通りの事なのでしょう?」


オレの不安を見抜いたかのように、シンルゥが何やら難しい事を言い出した。


んん? なんだって?


頭がついていかないオレにかまわず、シンルゥが話を続ける。


「皇子もそれを理解した上で取引に応じるおつもりです。無論、私も帰る所を失いました。お役に立てるのであれば魔王様に従い、皇子のお手助けを致します」


シンルゥはオレにそう言いつつ、表情を物憂げな微笑みに変えると皇子にもそう言った


なんかこじつけ臭いというか、うやむやにしてしまえ感がある。勢いと雰囲気でゴリ押すつもりか?


「……勇者よ。いや、シンルゥ。すまない」


しかし雰囲気に飲まれた皇子が、話に乗っかるのなら問題ないわけだ。


「いいえ。ですが、御覚悟を。魔王様に従属するという事は、人族に対しての裏切りです。しかもそれが大国の第一皇子。事が露見すれば、あらゆる国が敵にまわる事でしょう」

「裏切ったわけじゃない。裏切られたんだ。だがこれを裏切りというならば否定はしない」


皇子がぐっと拳をかためた。


「いや――オレは裏切るのだ!」


そして胸を張って宣言した。


……胸を張るとこかなぁ?


いや、なんか色々と感情の起伏がおかしくなってるんだな。ハイってヤツだ。


「オレは魔王と友誼を結ぶ! 力を手に入れ、全てを取り戻す!」


はい、皇子が闇堕ちしました。


……大丈夫? これ、計画破綻してない?


「国の為に、とおっしゃらないのですね。あくまでご自分の為だと?」

「……正直、弟の魔眼で治世するというのは悪くない。独裁者でありたいのならば人心をつかむというのは垂涎の能力だろうし、あの弟も病弱であるが無能ではない」

「恨んでいるというわけでもないご様子ですね」


意外そうな顔のシンルゥに、皇子は肩をすくめた。


「逆の立場と能力があればオレもそうしただろう。今のオレは単純に弟に敗北した結果でもあるのだから」


若気の至りで闇堕ちしたかと思えば冷静だ。


ちょっと安心した。


キレた若者の面倒とかみる自信なかったからね。


「物分かりが良い、いえ、良すぎる、というべきでしょうか。ではそんな皇子様が魔王様に望む事は?」

「簡単だ。オレの力になってくれ。いつか弟が国を割って率いるであろう反乱軍を鎮圧するための武力が欲しい」

「……なるほど」


シンルゥが合点がいったという顔をする。


オレはさっきから頭にハテナマークを浮かべたままだが、二人の会話は進んでいく。


妖精は眠くなったのか、オレの肩に座ったまま、首にもたれかかってウトウトしている。


この子のいい所は難しい話になっても邪魔をせず、大人しく待っているところだ。


しかしオレまでも大人しく待っているわけにはいかない。なんせ当事者だ。


……で、なんだっけ?


話が難しくてオレも眠くなってきている。


シンルゥはなんで皇子の武力要請に納得しているんだ?


「つまり、国に戻られるおつもりですね」

「ああ。そしらぬ顔で戻ってやることにした。シンルゥ、お前を連れてな」

「ふふ。大胆ですね」

「王たる父、聖騎士、聖女、教皇。皆がどこまでしらばっくれるのか見物だな」


国に戻る?


オレの力を借りて、殴り込むんじゃなくてか?


裏切り者たちが死んだと思っている皇子や、魔王の配下と相討ちしたと思われているシンルゥを連れて?


それじゃまるで……あー、そういう事か。


「このオレ……魔王と結託したと思わせてけん制するわけか?」


オレの頭がフル回転して正解を導いた。


オレだって、いざとなればできる子である。


「違うぞ? それはそれで面白いが」

「違いますよ。それも面白いですが」


不正解だった。


「貴様、いや貴殿が最初に言っただろう? ツッチー殿と言ったか。オレは土の魔王を倒して凱旋する」

「私も同伴し証言いたしますよ? 聖騎士と聖女が裏切り、魔王についたと」 

「うむ。魔王は手強く、さらに人を支配する魔術や幻惑を巧みに操ったと語ろう」

「ええ。そして聖騎士と聖女は皇子を裏切り、皇子を狙った為、私が皇子とともに返り討ちにした、と」


ふむ。


……ふむ?


どういう事?


「とぼけた顔だな。あえてオレの口から説明させる気か? もしオレが凱旋し、今のような報告を行えばどうなると思う?」


どうなるんでしょう?


「先に帰還してきた聖騎士と聖女は果たして本物か? となりますね。私たちが嘘をついていると思われたとしても、皇子を残して帰還した聖騎士と聖女の立場は? その意図は? いくつもの疑いの目にかかるでしょう」


なる、ほど?


「むろん、あの二人がオレとシンルゥこそ偽物だと主張するかもしれん。だが弟も自分が魔眼なんぞを持っているだけあって、魔王が持っていないとも判断できないだろう。そうなると、弟は自分の手駒だったはずの二人を信用できなくなる。なぜオレ達を殺さなかったのか? むしろ殺せなかったのか? 実は自分を裏切り、オレに寝返って何か企んでいるのではないか、などな?」

「この手の策謀は、ご本人たちが自分が正気だと言えば言うほどあやしくなりますからね」


なるほど……?


「オレを裏切るために同伴した聖騎士と聖女だ。それを計画した弟や、加担している教皇と父王にしても、この二人ならばオレに寝返る事はなくとも、何かエサをかかげた魔王にたぶらかされて、自分たちを裏切っているのではないかと思われても仕方ない。さらにオレの始末をしくじった上、シンルゥという第三者の証言者まで生還している。もはや駒としても信用はされまい」

「裏切り者の末路にふさわしいかと」


なるほど、なるほど。


第二皇子が聖騎士と聖女に裏切りをそそのかしたとはいえ、今度は魔王について人族を裏切ったかもしれない。


話が複雑になりすぎてよくわからなくなってきたが、展開が思わぬ方向にドロドロし始めたなぁ。


「簡単に言おう。オレが生還すれば国は大混乱だ。魔王ツッチー殿の望みもかなう」

「……オレの望み?」

「この島に手だしできるほどの余裕はなくなるという事だ」

「ああ、なーるほど!」


ようやくオレの求めていた、シンプルな結論がもたらされた。


「その混乱に乗じて、オレは国を継ぐつもりだ。シンルゥ、協力してくれるか?」

「もちろんです、と言いたいところですが魔王様のご許可しだいかと。私は命の恩人に忠義を捧げると誓いましたので」

「それが魔族でも?」

「裏切られる事もなさそうですし。皇子様も今後はツッチー様の助力をあおぐおつもりでしょう?」


二人の視線がオレに向く。


オレの答えは決まっている。


「好きなようにしてくれればいい。この島に平穏が保たれる限り皇子にも協力しよう……と言っても、特別何かできるとは思わないが?」


具体的にどうすればいいのか。


まさかスケルトンを皇子の私兵にというのはありえないだろうし。


スケさんやキューさんを使って、政敵を暗殺しまくるとか提案されたらどうしよう。


できるとは思うけど、そういうのはイヤだなぁ。


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